取引先のエリート社員は憧れの小説作家だった

仕事の休憩時間。

橘さん……翠川雅人の言う指導なのか、欲望なのかよくわからないストーリーを考えていた。

スマホのメモにとりあえず適当に書いてみる。

一番楽しみにしてる読者は橘さんだ。

「先輩何してるんですか??」

会社の近くのカフェにいた私の近くに後輩がいた。

ヤバい!見られたかな……

「深刻そうな表情して、心配になってしまいました」

「大丈夫だよ、仕事の事じゃないし!心配してくれてありがとう!」

「何かあったらいつでも相談してくださいね!」

後輩は去って行った。

こんなの書いてるとか誰にも知られたくない!

もし小説家になるなら、胸を張って堂々としたい!

とりあえず今は練習だと思ってやろう。

私は仕事から帰るとまた、ストーリーをパソコンに打っていた。

──そして

また橘さんの部屋へ。

インターホンを押すと、すぐに橘さんが出てきた。

「持ってきました……」

持っていた封筒を奪われた。

そして、そのまま橘さんは読み始めた。

「……こんな展開になるのか」

そのままリビングの方に行ってしまった。

私は橘さんの方について行った。

ソファに座ってじっくり見ている。

恥ずかしい…!!

「切なさの中にあるエロス……。でも最後はちゃんと結ばれるのか」

だって、離れ離れなんて、私は悲しい。

「こっちに来い」

橘さんの隣に座らされた。

「ちゃんと美鈴らしさがあるよ。それと合わせて俺の心を揺さぶるのかもしれない」

「褒めて頂いて……嬉しいです。ただなんか複雑です」

「自分の理想と現実は違う。俺はプラトニックと遠い人間だけどプラトニックな恋愛を書く。美鈴はプラトニックが好きだけど、エロスを書く」

そんなものなの?それは橘さん独自の理論?

「ちゃんと、前指導した部分が表現されてて……もっと教えたくなる」

橘さんはソファに私を倒してきた。

「教えるって……またそっちですか?」

「あ、そうだ、次はこうしよう」

橘さんは寝室に行った。

「こっちに来て」

どんな設定になるの?今度は……

寝室に行ったら、何故か橘さんは仰向けに寝ている。

「何してるんですか……?」

「余命三ヶ月、全身は事故の影響でうまく動かない……」

「主人公は看護師だ。ずっと優しく寄り添うけど、男に恋していく」

橘さんと目線が合った。

「俺の上に跨って」

跨る??

よくわからないまま私は跨った。

「最後の願い……君が欲しい」

え……

「でも、動けないんですよね……?」

「美鈴が主人公ならどうする?」

私なら……

「男は動けないから、女が動くしかないだろ」

「それは……橘さんの好きなシチュなのでは?」

「とりあえずしてみろ」

私が書くのに……

私は愛する余命三ヶ月の患者を、自分の中に深く閉じ込めた。

私は彼と初めて一つになった日を頭に描いるうちに……何故か勝手に体が動いた。

まるでキャラが憑依したように。

彼を慈しみ、全てを記憶する。

「いい……凄く。表情も」

これは作家としての指導なのか、橘さんという男の願望なのかわからないけど、頭の中で物語を紡いでいた。

◇ ◇ ◇

その日は大きな会議だった。

色んな部署の社員が集まり、そこに橘さんと同じ会社の人達も出席していた。

長い会議で、出席していた私は終わった後、デスクで放心状態だった。

「先輩!!橘さんが呼んでますよ!!ご指名ですよ!!」

後輩が意気揚々と来た。

一体なんなの……?

橘さんが待ってる小会議室に行った。

「お疲れ様です。」

橘さんが急いで駆け寄ってきた。

「書いた!?」

切羽詰まっている表情だ。

「えーと……まだざっくりと書いたレベルです」

「見せて」

「え!パソコンに保存してあるんです!」

「待てない……」

そんな事言われても!!

本当は秘密にしていたかったけど……

スマホに保存してあったやつを見せた。

「……感動した」

「え!?」

「繊細な表現……心の動き……情景……」

橘さんは私の手を握った。

「お前の書くエロス、俺は好きだ」

とても複雑な心境だった。

「よし、ちょっとまたあのフロアに行こう」

「え……あのフロアって…」

「わかるだろ?」

嫌な予感しかしない!!

「二人が長時間行方不明になってたら怪しまれます!」

「そんなに時間はかからない」

そのまま引きずられるように、前入った別の階の部屋に連れて行かれた。

「なんなんですか……」

「今度は上司と部下だ。上司は異動で海外に行く。だから暫く会えない。」

橘さんがネクタイを緩めた。

「待ってください!本当にするのは良くないです!」

ボタンが外されていって、胸元に橘さんの唇が触れる。

「だってもう頭の中で物語は紡がれてるだろ?」

確かに……情景がうっすら浮かび上がる。

主人公の寂しさが私の心を覆う。

「主人公の気持ちを言って?」

「離れたくないです……」

「……俺も」

橘さんは上司に自分を重ねている。

私も主人公になって考えている。

不思議な状況。

上司と部下は、お互い求めるがままに溶け合った。

「橘さん……公私混同です」

「お前が俺を夢中にさせるんだよ」

「自分で私にそう仕向けたんですよね……?」

「……そうだとしても、美鈴は書いている。物語は生まれる。俺は読みたい」

これでいいの……?

私の気持ちがだんだんと揺れ始めた。