君のとなりで、恋をする

──その時。


「おいおい、大丈夫か」


背後から伸びた長い腕が、すっと床のノートを拾い上げる。

その動きは驚くほど自然で、落ち着いていて、周囲のざわめきが一瞬だけ薄れた。

顔を上げると、結城先輩が立っていた。


「ゆ、結城先輩……」


喉がきゅっと鳴って、声が震える。

結城先輩は片手でノートを差し出しながら、もう片方の手を私の頭に、ぽん、と軽く乗せた。


「気にすんな。誰だってやったことあるよ、こういうの」


ただ、まっすぐこちらを受け止めるみたいな声音。

そして、普段の“余裕の笑み”じゃなかった。

思わず息をのむくらいの、優しくて、愛おしそうな笑顔。

心の奥がじんわり温まって、同時に胸がどくんと大きく跳ねる。

時間が一瞬止まったみたいで、体育館から漏れる音も、廊下の気配も、全部が遠のいた。

息をするのも忘れてしまいそうで、私はただ、見上げることしかできなかった。