君のとなりで、恋をする

──四月も半ばを過ぎて。


授業やクラスの雰囲気にも少しずつ慣れてきた。

それでも「遅れないように」と、プリントを胸に抱えた足取りは、どこか急いてしまう。


──移動教室の廊下。


チャイムが鳴り終わったばかりで、生徒たちの足音と声が入り混じっている。

その中で、抱えていたプリントの束から、一枚がひらりと落ちた。


「あっ……!」


しゃがもうとした瞬間、横から伸びた手が先に拾う。


「ドジだな、翠ちゃん」


振り返れば、大和くんがにかっと笑って立っていた。


「……ありがとう」


少し気恥ずかしくなりながらも受け取る。

大和くんはそのまま当然のように隣に並んで歩いていく。


「次の教室、こっちだろ? 一緒に行こう?」

「う、うん……」


何でもないやり取りなのに、肩が自然に軽くなった。

でも、その距離感の近さに、少しだけ落ち着かなくなる。


──その時。


別の校舎の窓からこちらを眺めていた煌大の視線が、ふと止まった。

片手で鞄を持ちながら寄りかかる姿は、いつも通りの余裕に見える。

けれど、その瞳の奥ではわずかな揺らぎが生まれていた。

翠は気づかない。

ただプリントを胸に抱きしめ、何も知らないまま歩き続ける。

その一瞬の違和感だけが、空気の隙間に取り残されていた。