あれから、わたしは一週間くらい、中庭のある駄菓子屋に通い詰めてる。

「……透くん、今日もいないかな〜……。いや、いたら話しかけるんだよね、わたし……たぶん……たぶん……」

中庭の風は、今日も涼しい。
風鈴の音、かき氷の味、光のやわらかさ――ぜんぶ気に入ってる。
それだけでも、ぜんぜん通う理由になる。

今日のかき氷メニューには、ちょっと気になる文字があった。
どこか他のメニューと違って見えた、『日向夏(ひゅうがなつ)シロップ』の文字。

にっこう(日向)……なんて読むのかわかんないけど、なんか夏っぽくて()き……これ前からあったっけ?」

なんとなくその文字が気に入って、今日はその味にした。

紙コップに盛られたふわふわの氷と、山吹色のシロップが溶けあって、ひと口食べた瞬間——

「……なにこれ、おいしい……」

スプーンを口に運ぶと、爽やかな柑橘系の甘酸っぱい味が、口いっぱいにひろがる。
目を閉じると、なんだか知らない風景が頭に浮かぶみたい。

「……これ、知らない夏の味……って感じ……!」

わたしは、すぐに空になった紙コップを少し見つめてから、《《おかわり》》を我慢して立ち上がり、店内を抜けて外へ出ると——ふいに風が頬をなでる。

「……あれ?」

吹き抜ける風が、《《今日は》》中庭と変わらない。