——とたんに、もわっとした熱気がまとわりつく。

「うわっ……現実ーっ……! どこ行ってたのさっきの風〜っ!」

店を出ると、中庭の涼しさが嘘だったみたいな暑さ。
あの涼しさは、かき氷を食べたから?それともパワースポットみたいな……。

「いやいや、きっと風の通り道だったとか、そういう……うん、ふつうの理由!」

違和感をごまかすように笑って、なんとなくスマホを確認する。

『2025年・8月』——連日の猛暑が当たり前の夏。
去年とそんなに変わらない、いつもの夏休み。……そう思ってた。

けれどそのとき、ふわりと吹いた風に振り向いたら、店内の奥に下げられたカレンダーが揺れて、目に入った。

『1995年・8月』

……何年前から、そこに掛かってるのかなって思ったけど、そのまま通り過ぎた。
古いカレンダーなんかより、わたしの関心事は――

「透くん……どこ通って帰ったのかな…?」

また、あの駄菓子屋に行けば……あの心地いい中庭に行けば——
今度は、あの後ろ姿に追いつけるかもしれない!

胸の奥が、ぽんっと跳ねた。
期待なんてしちゃだめ、ってわかってるのに、気づけば笑顔になっちゃってる。

「……明日も、行ってみようかな!」

中庭で感じた涼しさなんて、とっくにどっかへ行っちゃった。
帰り道の日差しは暑くて、風もぬるくて、夏は相変わらずだけど——
わたしの心には、なぜか優しい夏が巡ってきた気がしてる。

中庭で聞こえてきた、カラン……と耳に残る、透き通った風鈴の音のような……。