水色に混ざる夏

放課後、何も考えられないまま自室に戻り、制服のままベッドに倒れ込んだ。

——夢なわけ、ないのに……

あんなに楽しくて、まぶしくて、胸がぎゅっとなったのに——
透くんがくれた言葉、ちゃんと覚えてる。

「大切な思い出……だからな」

あのとき、わたしがこっそり写真を撮ったこと、怒らなかった。
むしろ『凛花らしくて良い』って言ってくれた。

嬉しくて、恥ずかしくて、でもすごく幸せだった。

……あの気持ち、絶対に夢なんかじゃない。

わたしは起き上がって、スマホを手に取った。
あの日々をちゃんと残しておきたくて、撮った写真を、確かめるために。

「……そんな……」

スクロールしても、更新しても、アプリを開き直しても、何もなかった。
夏の思い出が、どこにも写っていなかった。

駄菓子屋の写真だけじゃない、山も、夏祭りも、海も、商店街も、遊園地も……なにもかも。

打ちのめされたような気持ちになったとき、わたしの心の中でカラン、と《《透き通った》》音が聞こえた気がした。

「……風鈴――!」

あの夏祭りで、透くんにもらった風鈴!

大切な物を入れている、小さな木箱を開けると——

そこには――ちゃんと風鈴があった。

きらり、と光る透明なガラスに、《《水色》》の模様。

わたし達の夏は、たしかにそこにあったんだ。

「……うん、たしかにいたんだよ、透くん……」

涙がひとすじだけこぼれる。

でも、わたしはそれをぬぐって、立ち上がる。

きっと、また。

きっと、また——来年の夏、会える。

「だって来年の夏休みも、一緒にかき氷食べるって、約束したから!」

透くんとの約束を胸に、わたしは日常へと戻っていく。

夏が終わっても、大丈夫。

だって——季節はまた、巡ってくるから。

風鈴が、カラン、と小さく答えた。

〜おしまい〜