中は、映画とかで見るような雰囲気だった。
ごちゃっと積まれた駄菓子、小さなガチャガチャの機械、瓶ジュース。古い紙みたいな匂い、照明もちょっと暗くて、時代が止まってるみたい。

「え、なにこのレトロ感……かわいいかも……」

思い切って店に入ってみたけど、透くんはいない。かわりに「中庭でかき氷やってます」と書かれた手書きの張り紙を見つけた。

「え、中庭ってなに? 駄菓子屋に……庭? もしかして、そっちに居る……?」

もうここまで来たら、行くしかない。
少し緊張しながら中庭へ進むと——《《何か》》が、変わった。

蝉の声はそのままだけど、ちょっとだけ遠くなった気がした。
日差しも優しくなって、頬をなでる風が心地いい。

「……なにここ、めっちゃ涼しい……。え、外なのに? どっかから、エアコンの風が流れ込んでるとか……?」

不揃いな石畳の中庭。手入れされた植え込みと、木陰に置かれた小さなテーブルとベンチ。
風鈴が涼しげに揺れていて、その下でかき氷のメニューがふわっとなびいていた。

「……あー、これはズルい。完璧じゃん……」

わたしは、いちご味を選んだ。
運ばれてきたかき氷は、駄菓子屋らしく、飾り気のない小さな紙コップにこんもりと盛られている。
ふわふわの氷に、真っ赤なシロップがたっぷりかかっていて——
ひとくち食べた瞬間、思わず声が漏れる。

「……ん~っ、しあわせ……これ絶対当たり……」

静かで、涼しくて、ちょっとだけ懐かしい。
昔の夏休みって、たぶんこんな感じだったんだろうな……って、思わせてくれる場所。

「……なんか、ここだけ時間がゆっくり流れてる気がする……」

そんなことをぼんやり考えながら、かき氷を食べ終え、わたしは駄菓子屋を抜けて外に出た。