遊び疲れて海の家で一息ついたとき、私はふと財布を取り出した。

「ね、透くん……この前のお祭りで借りた五千円、返そうと思って……」

そう言って財布を覗くと、千円札が四枚だけ。

「……あれ、五千円なかった」

「気にしないでいいよ、凛花には色々手伝って貰ってるんだから」

「そんなこと……透くんだけの問題じゃないし……」

何か少し突き放された様な気がして、ガラスの部屋に閉じ込められたような感じがした。

「そうだな、ごめん……俺達ふたりの問題だから、手伝って貰ってるは違ったな」

透くんのその一言で、わたしの心は、自分でも呆れるほど簡単に、自由になった。
だって――《《俺達ふたりの問題》》、って……特別な関係って思える、自分でも気づいていなかった、《《ほしかった言葉》》をくれたから。

嬉しくて、恥ずかしくて、申し訳なさもあって。
いろんな気持ちがいっぺんに押し寄せてきて、わたしは何も言えなかった。
透くんは、それに気づいていたのかいないのか――何事もなかったように、そっと話題を元に戻してくれた。

「俺、ちょっとした収入あるから、気にしなくていいよ」

「でも、借りたものはちゃんと返さないと」

わたしの真剣な顔に、透くんは少しだけ困ったように笑って言った。

「じゃあ、代わりに——お昼、俺が好きなもの、奢ってよ」

「え?――うん!まかせて!」

「海の家、焼きそばとラムネが俺は好き」

「わかった!」

わたしが注文して運んできて、ふたり並んで食べる焼きそばは、ソースの香りが潮風と混ざって、やけにおいしかった。

透くんの髪から落ちたしずくが、首筋を伝って、陽にきらめいた。その《《一瞬》》が、《《永遠》》に時が止まったかのようにも感じた。

(……なんだろ、この感じ……)

いつもとは違う胸の高鳴りを隠すように、わたしはラムネ瓶の中のビー玉を揺らした。