「ねえ、凛花。お金、持ってきた?」

「もちろん! ほら、千円札が三枚!」

そう言って、わたしは自慢げに財布から取り出した。

「……それ、使えないよ」

透くんがくすっと笑って、自分の財布から別の千円札を取り出す。

「あっちでは、これ。夏目漱石」

「知ってる! その人、教科書で見たことある……」

「小説家。『こころ』とか『坊っちゃん』とか書いた人」

「あー……それ聞いたことあるかも」

すると、透くんはもう一枚、古いお札を取り出した。

「はい、お小遣い。今日は楽しもう」

「えっ、五千円も!? ……あれ、この人……今の千円の人…?」

「新渡戸稲造と北里柴三郎か…確かに、肖像画は似てるな」

「同じ人じゃないの? 格下げされたんだと思った……」

わたしが小声で言うと、透くんが吹き出した。

「面白いこと言うね、凛花」

「ち、違うもん。後で返すから! ちゃんと覚えておくから!」

渡された見慣れない五千円札を、大事に財布にしまいながら、どこか使うのが惜しいような気がした。透くんがくれたから?それとも、珍しいものに感じるから?
でもせっかくの思い出のためだからと心を決める。