裏山は、想像よりもずっと歩きやすかった。
木陰が続く緩やかな山道は涼しくて、しっとりした山の風が全身を吹き抜ける。

「……意外と登れるもんだね。登山って聞いたときは、正直ちょっと覚悟したけど」

「このへんの子どもなら、遠足レベルの山だからな」
透くんが一歩先を行きながら、肩越しに笑いかけてくる。

でも、わたしにとっては——これはもう、大冒険だ。
だって……初めてのデートだから……デートって思っててもいいよね……?

木々の隙間から、だんだん空が近づいてくる。
もうすぐ、着く——そんな予感がした頃。

頬に当たる風が、さっきまでの緊張をすっと連れていった。

「はぁ〜っ、登った〜っ!」

ちょっと気が抜けるくらい、山頂はすぐだったけど、わたしは手を広げて思いっきり伸びをした。

目の前には、遠くまで続く街並み。
少しだけくすんだ水色の空から、ときおり強く吹いてくる風が気持ちよくて、心も体も晴れ晴れとしてくる。

「きもちいい……」

自然と口からこぼれる。2025年の街よりもビルは少ないっぽいけど、あまり違和感はない。なぜか、この風景の方がしっくりくるくらい。

「空気、ちょっと軽い気がしない?」

「うん。理屈じゃなくて、なんか清々しいんだよな。空気感というか」

透くんがそう言ってペットボトルの水を飲む姿も、なんだか絵になってずるい。

「はい、これ」

透くんがリュックから取り出したのは、コンビニのおにぎりだった。

「えっ、わざわざ用意してくれたの!?」
「コンビニのだけどね」

わたしはおにぎりを受け取って眺めると、小さく首をかしげた。

「……なんか、このフィルム、開け方いつもとちがう?」

「ああ、それ、古い方式のフィルムだからな。今のと開け方が違うんだよ」

「う、うそでしょ、どこから剥がせば……わっ、海苔が破れた……!」

焦ってると、透くんが無言で手を伸ばして、おにぎりをすっと取っていって、あっという間に、きれいに開封した。

「なにその手際……」
「値段が安いから、買い物はこっちでするんだよ」

なんとなくごまかすように笑うその表情に、わたしはまた少しだけ、胸の奥に引っかかるものを感じた。

——だって、そんな手際のよさ、まるで、ずっと前からこの時代で暮らしてたみたい。