パーン!!

その音にはっと我にかえる。

(出遅れた!?)

他の選手は走り出している…もちろん"アイツ"も…

"アイツ"の背中から『何やってんだ?』という嘲りが感じられる。

(負けるか!今日で決着をつけるんだ!)


500mのトラックを十周する単純な競技。
僕はそこに、全ての想いを込めた。

一周…二周…
"アイツ"の背中はまだ遠い…

(くそっ!まだまだ…)

三周…四周…五周…
"アイツ"との距離はかなりある。

(いや、少し近づいてる!)

"アイツ"に絶対に勝つんだ…いつしか周りの景色は薄れ、僕と"アイツ"二人だけが走る世界になっていた…

六周…七周……

肺が悲鳴をあげ、身体中が燃える様に熱い…
プレッシャーに心が潰されそうになる…
徐々に意識が途切れがちになる僕を"アイツ"は笑った

(負けたく…ない…僕自身に…)


八周……
その時だった

『建ちゃ~ん!』

遠くから声が聞こえた。

『私も一緒にいるから!!大丈夫だから!"アイツ"に負けないで!』

その瞬間僕の周りに景色が戻ってくる…
彩の言葉で、プレッシャーから解放された。

(僕は一人じゃない、いつだって彩が支えてくれたんだ。僕は…負けない!)

九周…そして十周目

ゴールまで残り200m…

いつしか僕は"アイツ"の真後ろにたどり着いていた。


残り100m
横一線に並ぶ

50m
僕が少しリードするが…振り返る余裕はない。

40…20…




陽射しがジリジリと皮膚に染み込んでくる。見上げればどこまでも続く青い空…隣には彩がいた。

「勝ったよ…」

『うん、私にも見えたよ…』

ふと背後に気配を感じ振り返る…"アイツ"がいた。

『もう、俺は必要ないんだな』

「うん…でも君がいたから僕は強くなれた」

そんな言葉が出る。
すると彼は照れたような笑みを浮かべ、青い空へ吸い込まれるように消えた…

「原角…幻覚」

自然とそう理解してしまう。



翌年、僕と彩は巣立ちの日を迎えた。

いつも支えてくれた彩…
その日僕は…二回目の勇気をだした。

「ねぇ彩、話しがあるんだ…僕と…」