淡い香りと優しく包み込むような花びらの舞う頃

僕は県立有素高校に入学した。
世に言う名門らしく、毎年有名大学に何人も合格者を出してるらしい。

正直受かるなんて思ってなかったし…運が良かったのか奇跡が起こったのか…

誰より喜んでいたのは両親だった。

1年1組

『1が二つ並んでる!』と、そんな事にさえ浮かれていたのだから…

そしてもう一人、幼なじみの岡島 彩

保育園の時から一緒で、世間的には腐れ縁と言われるのだろうけど…
お互いに通じ合うというか、何と無く好き同士なはず…なのに何も言い出せない、そんな仲だった。

だから僕が合格したと知った時も飛び上がって喜んでくれた。
まぁ残念ながらクラスは違ったけれど。


しかし問題は入学してからだったんだ。


あまりにも早い授業のペース、予習復習はもちろん塾通いの生徒が多いせいか、先生達も余計に厳しかった。


自分でも思った程の

『奇跡の入学』

実際の所、いくら頑張っても他の生徒について行けるはずがない。
半年もすると、すっかり授業が分からなくなっていた。


でも親には「学校生活は順調だから、余裕だよ」なんて嘘をついてた…

あんなに喜んでた両親を悲しませたくなかったし、息子に期待を裏切られたなんて思ってほしくなかったから…


だから家では必死に両親の理想の息子でいようとした。


ちょうどその頃だったんだ…"アイツ"に出会ったのは…

最初"アイツ"は優しく声をかけてきた。

勉強どう?クラスには馴染めた?

そんな事を言っていた。
親しげに話す"アイツ"の根底に、何処か僕と近い物を感じて二人はすぐに仲良くなった。



"アイツ"は自分の事を原角(はらずみ)と名乗った。

珍しい苗字だねって聞くと

『まぁな、滅多にいないから』

と笑いながら答えた。