黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

突如として空気が震えた。

風が止み、空が煌めき、
視界の端に“白く巨大な影”がゆらりと揺れる。

「……っ!」
雪蘭が息を呑んだ。
聖域が近いせいか、
五幻獣の霊気が満ちるこの場所では、
雪蘭にかけられた呪詛が一時的に弱まり――
麒麟の化身がはっきりと姿を現せたのだった。

白鹿の姿をしたその化身は、
ゆっくりと二人に歩み寄る。
『迷う必要はない。お前たちは――このまま進め。天啓へ行け。』
麒麟の声音は、
霧の奥底から響くように深く、温かかった。

凌暁は思わず一歩前に出る。
「だが、国が……霜華が……!」
『霜華国は“我”が護る。麒麟の加護を持つ国を……そう易々と滅ぼさせはしない。』
雪蘭の胸に熱いものが込み上げる。
「麒麟さま……!」

大きな白鹿は、
そっと雪蘭の頬に鼻先を触れさせ、
柔らかな光が彼女の体を包んだ。
その瞬間、胸の痛みも呪詛の重さも薄らぎ、
雪蘭の呼吸が軽くなっていく。
『雪蘭。お前の心は清らかだ。決して折れるな。“真の媒介者”は――お前だ。』

白鹿の体を覆う光が強くなり、
その姿はさらに大きく、
さらに神々しく変容していく。

鹿に似た体、龍の鱗、牛の尾。
空気そのものを震わせる神獣の威圧。
――麒麟が本来の姿で現れたのだ。
物語絵に描かれた姿と同じ。
しかし本物はなんと神々しく美しいのだろうか。

麒麟は天を仰ぎ、天地を揺らす咆哮を上げた。

次の瞬間、
光の尾を引きながら、
霜華国の方角へ一直線に飛翔したのである。
音も風も光も、全てが圧倒的だった。

凌暁も雪蘭も、言葉を失った。