二人はなんとか山を抜け、
打ち捨てられた古い山小屋で
夜を明かす準備をした。

火を焚き、外套を雪蘭の肩にかける凌暁。
雪蘭は外の風の音に少し怯えたように身を縮める。
「凌暁さま……隣にいっても……いいですか……?」
凌暁は小さく微笑み、雪蘭の肩を抱き寄せた。
「雪蘭。夜は冷える。こちらにおいで。」
雪蘭は胸を預け、安堵のため息をもらす。
「凌暁さま……私……本当に……生きて天啓にたどり着けますか?」
凌暁は彼女の額へ長く優しいキスを落とした。
「たどり着く。必ず。私が自分の命を賭けてでも。」

その後しばらくして、
雪蘭はそのまま凌暁の腕の中で眠りにつく。
炎の揺らめく薄明かりの中、
凌暁は彼女の髪に触れながら静かに誓う。
「蓮音……私の大切な女をこれ以上苦しめるなら――容赦はしない。」

夜が明け、二人は再び馬を走らせる。
山を抜ければ、そこはもう天啓の聖域だ。
しかし――
蓮音はすでに、二人が来ることを察知している。
天啓の奥深く、五幻獣の光が揺らめく神殿で、
蓮音は薄く笑った。
「ようやく来たのね……雪蘭様。あなたの“終焉”の地へ。」