霜華国の情勢は混乱し、
麟の加護を得た雪蘭の身には新たな呪詛の影が迫る。
蓮音を追うには、
表立った使節団を組むわけにはいかない。
凌暁と雪蘭――二人だけの密行。
その決断は、ある夜、密やかに下された。

深夜、霜華宮の裏門。
人目を避けるため、
月も隠れた闇に紛れて馬を二頭引く凌暁が待っていた。

雪蘭はまだ体が万全ではない。
だが、彼女は薄衣に外套を羽織り、
凛と立って現れる。
「……本当に、二人だけで行くのですね。」
凌暁はゆっくりと振り返り、
雪蘭の頬に手を添えた。
「護衛をつければ蓮音に察知される。今は霜華国の中にすら敵がいる……そなたを守れるのは私自身しかいない。国のことは信頼できるものに任せてきた。彼らを信じよう。」

ゆっくりと頷く雪蘭を優しく抱き寄せ、
耳元で囁く。
「怖がるな。どんな闇の中でも、必ず私が導く。」
雪蘭の心臓が跳ねる。
「……凌暁様と一緒なら、どこへでも。」

二人は静かに馬へと乗り、
月明かりなき夜の道へ走り出した。