ある午後。

雪蘭が庭に出た際、
立ちくらみで少しよろめいた。
すかさず璃月が駆け寄る。
「まあ、雪蘭様。お顔の色がとても悪いですわ。休まなくて大丈夫ですの?」
まるで心底心配しているような声音。

雪蘭は弱々しく微笑む。
「……少し、疲れが出てしまっただけで……」

璃月は袖の中から、
小さな袋をそっと差し出した。
「実は……天啓の巫女様から、雪蘭様に託された物がございまして。“霊力の乱れを抑える護符”だそうですわ。雪蘭様が苦しまぬようにと、ご配慮くださったのでしょう。」

「蓮音様が……?」
雪蘭は疑いを持つはずもなく、
ありがたさに胸を熱くする。

璃月はやわらかく微笑む。
その瞳だけが冷たく光った。
「どうか……雪蘭様のお力になりますように。」
そう言いながら、雪蘭の手に護符を握らせる。

その護符は――
蓮音がわざわざ天啓から持ってきた
“さらに強力な呪詛” だった。

雪蘭が手にした瞬間、
護符の奥の黒い霊脈が、熱を帯びて脈打ち始める。
(……あれ?
胸が……少し苦しい……ような。)
雪蘭は違和感に気づきながらも、
“自分のためを思って璃月が渡してくれた” と思い込み、
護符を懐に大切にしまってしまった。

璃月は背後でそっと微笑む。
甘く、優しく、そして――残酷に。
(これで……雪蘭様はゆっくり沈んでいく。蓮音様がおっしゃった通りに……)