その夜。
聖殿から派遣された神官たちは皆寝静まり、
宮中の灯火が静かに揺れる頃。
蓮音は一人、密かに宮廷の裏門を抜けた。
霜華国の警備を巧みにすり抜け、
庭園の奥――人の寄りつかない古い離宮へ。
そこには闇に紛れるような黒衣の影が、
蓮音を待っていた。
「……よく来たな、天啓の巫女よ。」
黒衣の男は、
“雲蒼国” の密使――
凌暁の政敵である宰相の部下だ。
蓮音は袖を払って優雅に微笑む。
「霜華国は……まもなく揺らぎ始めます。麒麟の加護を得たとはいえ、“加護を受けた者” が自ら暴走したとなれば……民は不信を抱くでしょう。」
密使は目を細めた。
「霜華国の内部崩壊が近いということか。」
「ええ。
宮廷の美姫・璃月様を利用すれば、
雪蘭様への憎悪は簡単に炎上します。」
蓮音は薄い笑みを浮かべて続ける。
「国主・凌暁は雪蘭様を庇い続けるでしょう。
だがそれは、彼自身への信頼を損ねる行為にもなり得る。」
「……ならば、攻め込む隙が生まれる。」
「その通りよ。」
蓮音の白い指が宙をなぞる。
「霊力が乱れ、宮廷が混乱し、民の心が疑念で満たされた時――雲蒼国が援軍という名の“刃”を向ければいい。」
密使の口元に醜悪な笑みが浮かぶ。
「麒麟の加護を持つ国を落とすなど、通常は不可能だと思っていたが……まさか天啓の巫女が道を開いてくださるとは。」
聖殿から派遣された神官たちは皆寝静まり、
宮中の灯火が静かに揺れる頃。
蓮音は一人、密かに宮廷の裏門を抜けた。
霜華国の警備を巧みにすり抜け、
庭園の奥――人の寄りつかない古い離宮へ。
そこには闇に紛れるような黒衣の影が、
蓮音を待っていた。
「……よく来たな、天啓の巫女よ。」
黒衣の男は、
“雲蒼国” の密使――
凌暁の政敵である宰相の部下だ。
蓮音は袖を払って優雅に微笑む。
「霜華国は……まもなく揺らぎ始めます。麒麟の加護を得たとはいえ、“加護を受けた者” が自ら暴走したとなれば……民は不信を抱くでしょう。」
密使は目を細めた。
「霜華国の内部崩壊が近いということか。」
「ええ。
宮廷の美姫・璃月様を利用すれば、
雪蘭様への憎悪は簡単に炎上します。」
蓮音は薄い笑みを浮かべて続ける。
「国主・凌暁は雪蘭様を庇い続けるでしょう。
だがそれは、彼自身への信頼を損ねる行為にもなり得る。」
「……ならば、攻め込む隙が生まれる。」
「その通りよ。」
蓮音の白い指が宙をなぞる。
「霊力が乱れ、宮廷が混乱し、民の心が疑念で満たされた時――雲蒼国が援軍という名の“刃”を向ければいい。」
密使の口元に醜悪な笑みが浮かぶ。
「麒麟の加護を持つ国を落とすなど、通常は不可能だと思っていたが……まさか天啓の巫女が道を開いてくださるとは。」



