黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

璃月の胸が高鳴る。
「……それが成功すれば?」
「雪蘭さまは自分を制御できず、周囲を傷つける存在になる。」
蓮音の口元に、薄い笑みが浮かんだ。
「“暴走した女”が霜華国で受け入れられるはずがありません。」
璃月の瞳が輝く。
「つまり……雪蘭は失脚し、凌暁さまの傍には私が……?」

蓮音は“肯定”とも“嘲笑”ともつかぬ表情を浮かべた。
「その未来を望むのなら。あなたにも相応の役割を果たしていただかないと。」

璃月は一歩近づき、
蓮音の手から護符を受け取った。
「……どうすればいいの?」
蓮音は璃月の耳元に顔を寄せ、
柔らかく囁いた。
「あなたは──凌暁さまの“隣”に立ち続ければいいの。」
璃月の背筋が震える。
「雪蘭さまに“見せる”のです。あなたがどれほど彼に近いかを。」
「そうすれば、雪蘭さまの霊力は……必ず暴れ出します。」

蓮音の瞳は、
悲しみも慈しみも欠片もない、
ただ冷たく美しい光に満ちていた。

璃月は護符を胸に抱き、
妖艶な笑みを浮かべた。
「ええ……やってみせるわ。雪蘭なんかに、全部奪われてたまるものですか。」
璃月は完全に蓮音の言葉に酔い、
自分に都合の良い解釈だけで満たされていた。
その目はもう、
雪蘭を“潰す”方向しか見ていない。

蓮音はその様子を見ながら、
内心で冷えた微笑を深めた。
(――使い捨ての駒に、ちょうど良いわ。)