黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

雪蘭を抱いて去る凌暁の背中を
苦々しく見送った璃月は、
唇を噛みしめながら蓮音のもとへ向かった。

月明かりだけが照らす一室で、
蓮音は静かに護符の束を広げていた。
璃月は扉を閉めるなり、
感情を押さえきれず声を荒げる。

「どういうこと!?雪蘭は暴走しかけていたのよ!なのに──最後に助けられるのはいつも凌暁さま……!」
蓮音は顔を上げず、淡々と返す。
「焦りすぎです、璃月さま。あれでいいのです。」
「よくなんてないわ!だってあの男……雪蘭を抱きしめて、まるで宝物みたいに……!私の立場がないじゃない!」
声を震わせる璃月を、
蓮音はようやく見上げ、冷たい瞳で見据えた。
「凌暁がどれほど雪蘭を大切にしているか分かったでしょう。だからこそ──彼女の“心”を乱さなければいけないのです。」

蓮音はゆっくりと立ち上がり、
手に一枚の護符を取った。
白い紙に、黒く禍々しい印が浮かんでいる。
「今日、雪蘭さまの霊力は確かに揺らぎました。そして、あなたへの嫉妬が“引き金になる”ことも証明されました。」

璃月は息をのむ。
蓮音は護符を指先で軽く弾きながら言った。
「ですが──あの程度の揺らぎでは、暴走には至りません。」
「もっと……追い込む必要があるのです。」
璃月は無意識に微笑み、囁く。
「……追い込む……?」
「ええ。」
蓮音の声は静かで、怖いほどに優しい。
「雪蘭さまが“孤独”を感じ、“愛されていない”と思い込み、不安と嫉妬に飲み込まれれば──」
蓮音は護符をひらりと璃月の前で揺らす。
「この護符が、その感情を霊力へと変換し、一気に爆発させます。」