翌日。
雪蘭は侍女に促され、庭園へと向かった。
「雪蘭さま、国主さまがお呼びです。」

雪蘭は胸を高鳴らせながら歩く。
──凌暁さまが？昨日の疲れも取れたし……今日もきっと優しい顔を見せてくださる。

けれど、庭園で待っていた光景は
まったく別物だった。
石畳の中央で、
璃月が凌暁の腕にそっと手を添え、
親しげに寄り添っていた。
しかも──
璃月はあざといほど自然に体を寄せ、
凌暁の耳元で何かを囁いて笑っている。

「……っ！」
雪蘭の胸がギュッとつかまれるように痛んだ。
凌暁は璃月の手をそっと離し、
淡々と距離を取ろうとしている。
だが雪蘭の目には、
そのわずかな瞬間すら胸を刺した。

璃月が気づいたふりをして振り返る。
「まあ、雪蘭さま。国主さまと国の状況についてお話していたところなの。私は国主さまに仕える尚麗ですもの。私たち、昔からこうして政治の相談をしていて……ね？」

“ね？”と甘えるように凌暁に視線を送る。
雪蘭の胸がズキリと鳴る。

その瞬間、護符が熱を帯びる。
霊力が揺れ、ざわざわと皮膚の下を走る。
「……っ……やめ……て……」
雪蘭は震える手を押さえた。
璃月はわざと心配そうに近づく。
「どうかなさいました？お顔が真っ青ですわ。」
その声音には露骨な愉悦が混じっていた。

雪蘭の霊力が、不安と嫉妬に反応して膨れ上がる。
空気が震え、草木がざわめいた。

璃月の頬に風が走り──
「きゃっ！」
璃月はわざとらしくよろめき、
身をくねらせて倒れかける。

その瞬間。