黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

ある日、璃月が雪蘭の髪を結う女官を叱責し、
雪蘭の目の前でその女官の髪を強引に引っ張った。
「この者が、雪蘭様をわざと醜く見えるように髪を結ったのです。まったく、雪蘭様の格に見合わぬ者ばかり……」

その女官は雪蘭のお気に入りで、
彼女は雪蘭の好みを熟知していた。
彼女がそんなことをするはずがないのは
雪蘭が一番良く分かっていた。
つまりは、璃月の嫌がらせなのだ。
彼女の悪意に満ちた声。
雪蘭の胸の奥がぐらりと揺れる。
(やめて……やめてよ……)

視界の端で護符が脈動し、
胸の中心から、熱が――溢れ、暴れた。

ばちんっ!!

空気がはじけ、雪蘭の周りに金の火花が散る。

直後。
「きゃあああっ!!」
璃月の身体が、突風に押されたように吹き飛び、
柱にぶつかって倒れ込み、腕に怪我を負った。
雪蘭は呆然と立ち尽くした。
「わ、私……今、何を……?」
罪悪感と恐怖で足がすくむ。
璃月は涙を滲ませ、周囲へ叫んだ。
「雪蘭様に……っ、雪蘭様に暴力を振るわれました!!
私、殺されるかと思った……!」

璃月は泣きながら祖父である宰相へ駆け込むと、
宮中は瞬く間に騒ぎに包まれた。
「雪蘭様は暴力的だ」
「麒麟の加護で増長しているのでは」
「国主様はあの女に迷わされている」
もともと噂好きな宮廷。
陰湿な噂が広まるのは早かった。

それ以降、女官たちは雪蘭を見ると
怯えたように距離を置くようになった。
「わ、私は……そんなつもりじゃ……」
女官たちのあからさまな態度を見て、
雪蘭は静かに崩れ落ちた。

また胸の中の霊力が、
ざわざわと蠢いている。