「雪蘭が笑わぬ宴に、意味はない。私はそなたが満たされていない場で、喜びなど感じられん。」
その言葉に、雪蘭の目が潤む。

周囲はざわつき、
璃月は――

ぎりっ

嫉妬に震える手で、持っていた皿を割った。
鋭い破片が床に散らばり、女官たちが悲鳴を上げる。

しかし凌暁は雪蘭しか見ていない。
「……さあ。こちらに来い、雪蘭。皆が用意してくれたのだ。一緒にいただこう。」
彼は自身の隣に空いていた席へ雪蘭を導き、
自分の側近に命じて
雪蘭の膳をすべて差し替え、
自分の膳の品も彼女の前へと移した。

「そなたがいなければ麒麟は我らを選んではくれなかっただろう。これらは全て、そなたが受けるべきものだ。」
凌暁の優しい言葉に雪蘭は頬まで赤く染め、
震える声で礼を述べた。
「……凌暁様、ありがとうございます……」

その瞬間、祝宴の空気が一変する。
歓声と音楽が戻り、
二人の席だけが柔らかな光に包まれたように見えた。

だが――
その光の下で、雪蘭はふと胸元を押さえた。
心臓が、痛い。
息が浅くなる。
視界が揺れる。
（……どうして……？）
凌暁の手が触れた瞬間だけ、少し楽になる。

だが次の瞬間、胸の護符が熱を帯び――
雪蘭は顔色を失った。
(何かが……おかしい。）

異変は、静かに始まっていた。