大広間には絹の旗が揺れ、香が焚かれ、
豪奢な料理がずらりと並んでいた。
だが、雪蘭の席だけが――妙に質素だった。

凌暁の前には山海の珍味、
煌びやかな器に盛られた膳が並ぶのに、
雪蘭の膳は簡素な木皿に野菜中心の料理だけ。

まるで“側室以下”。
この場を仕切ったのは璃月だった。
「雪蘭様はまだお身体も弱いので、この程度のお食事のほうがよろしいかと……」
璃月はいかにも気遣っていますというふうに
柔らかく微笑んだが、その目は冷たかった。
周囲の女官達も、
雪蘭を侮るような視線を向ける。

雪蘭は唇をかすかに噛むが、
凌暁に迷惑をかけまいと、静かに席に着いた。

だが――
凌暁の箸は、動かなかった。
しばし沈黙ののち、鋭い声が大広間に響く。
「誰がこれを指示した。」
雪蘭以外の全員が凍りついた。
璃月が動揺しながら答える。
「こ、国主様……雪蘭様はまだ旅の疲れも残っているでしょうし、身体も弱――」

ぱんっ！
凌暁が膳を叩いた音が響き、器が震えた。
「麒麟に選ばれたのは 雪蘭のおかげだ。この国に未来をもたらしたのは、彼女だ。その彼女を──この扱いとは何事だ。」
広間が震えるほどの怒気。
凌暁が本気で怒っていると
そこにいる誰もが理解した。

雪蘭は慌てて袖を掴む。
「り、凌暁様……わたくしは……」
凌暁は振り向き、
雪蘭の頬をそっと撫でた。
「そなたの食事が粗末な場所で、私だけ豪勢な膳に座っていて……そんな状況で、どうして私が食事などできよう。」

先ほどの怒声とは真逆で
その声は甘く、溶けるようだった。