蓮音は静かに顔を上げる。
微笑んでいる
――けれどその瞳には、
燃えるような緊張が宿っていた。

加護が授けられたのは雪蘭と凌暁のみ。
その場の祝福が響けば響くほど、
蓮音の胸には暗い影が濃くなっていった。
「何故……修練を積んできた自分ではなく、彼女なのか。」
「私は恋も愛も捨てた。すべて神に捧げたのに。」

そして耳に残る昨夜の密談――
「雪蘭殿は神殿に迎えるべきだ。」
「彼女こそ新たな巫女長となる器だ。」
蓮音が欲しかったもの、積み重ねたもの、
存在価値すら奪われるかもしれないという恐怖。


「どうか……ご無事で。」
呟いた声は、祈りというより、
呪いに近い響きを含んでいた。