馬車の中。
出立から半刻が過ぎても、
二人の間で言葉は少なかった。

外の景色が静かに流れる。
雪蘭は、ふと勇気を出して口を開く。
「……国主様は、この神事には参加されたことが?」
「いや。聖地を訪れたことはあるが、私が神事を行うのは、今回が初めてだ。」
「そう……でしたか。」

凌暁は視線を前に向けたまま、
わずかに目を細める。
「雪蘭殿はどうだ?」
「聖地へは、幼いころ一度だけ参りました。けれど……覚えているのは白い石段と、遠くで響く鈴の音だけです。」
その声には淡い寂しさが滲んでいた。

凌暁は、わずかに表情を和らげた。
「……聖地は、静かな場所だ。心を騒がせるものがないのなら、それでよい。」
雪蘭はその言葉に、ふっと小さく微笑んだ。
「はい。国主様のお言葉の通りに。」