しかし雪蘭は、
その湯の中に静かに座り続けていた。

五分……
七分……
十分……

さすがに周囲の正妃たちが動揺を見せ始める。
「雪蘭殿……?そ、その、ずいぶん長く……平気なのですか?」

声をかけられた瞬間、
雪蘭ははっとして湯から立ち上がった。
その瞬間——
「……!」
正妃たちが一斉に息を呑んだ。

雪蘭の白い肌から、
淡い黄金色の光がゆらりと立ち昇ったのだ。
湯気の中に溶けながら、
まるで陽光がその身体を包んでいるかのように。

「雪蘭殿……光って……いらっしゃる……?」
湯殿にざわめきが広がる。
しかし、雪蘭自身は何も感じていない。
ただ、身体がとても軽いだけ。

「あの、私……そんなに長く入っていましたか……?」
「ええ……まるで、熱さが堪えていないようで……」

だが光は一瞬だった。
儀式を終えて断穀の膳についたころには、
いつもの雪蘭の姿に戻っている。
それでも確かにあのとき、
雪蘭の中の“何か”が外へと溢れ出たのだった。

時を同じくして隣の湯殿では、
国主たちも同じように湧泉の湯に身を沈めていた。
凌暁も静かに目を閉じ、心身を整えていた。