夜。
部屋には穏やかな灯が揺れ、
風が外の香を運んできた。
「……今日の剣舞、すごく美しかったです。国主様の剣が誰よりも強く、美しかった。」
雪蘭はおずおずと口を開く。
凌暁は盃を持つ手を止め、
わずかに驚いたように視線を向けた。
「美しかった……か?」
「はい。刃の動きがまるで火の舞のようで……でも、どこか悲しげで……見ていて胸が締めつけられました。」
熱に浮かされる様に言い終えた瞬間、
雪蘭ははっとして顔を赤くした。
「……っ、す、すみません、私ったら。偉そうに……!」
凌暁は思わず小さく笑った。
「いや。そんなふうに言われたのは初めてだ」
「初めて……ですか?」
「戦場では“強い”か“勝った”かでしか語られない。“美しい”などと呼ばれたことは、一度もないよ。」
その目に浮かんだ柔らかな光に、
雪蘭の胸がまた熱くなる。
沈黙。
しかし、今日はその沈黙が心地よかった。
やがて、凌暁がふと呟くように言った。
「……そなた。いつまで“国主様”と呼ぶつもりだ?」
雪蘭は瞬きをした。
「え……?」
「もう少し、柔らかく呼んでくれてもいいだろう。」
照れ隠しのように視線を逸らしながら続ける。
「名で呼ばれた方が……距離が近くなる気がする。」
(な、名前で……!?)
雪蘭の頬が一気に紅潮した。
言葉が出ないまま、指先が落ち着かず、
視線を泳がせて――小さく、唇が動く。
「……りょ、凌暁様……」
その声音は、
火のように淡く震えていた。
凌暁は一瞬、息を止めたように彼女を見つめ、
ゆるく笑みをこぼした。
「……ああ。その方が、ずっといい。私もそなたを名前で呼ぶことにしよう。」
火の灯りが二人の間を照らし、
夜風が静かに障子を揺らした。
2人は寝台に上がり、横になる。
「おやすみ、雪蘭。」
「おやすみなさいませ、凌暁様。」
部屋には穏やかな灯が揺れ、
風が外の香を運んできた。
「……今日の剣舞、すごく美しかったです。国主様の剣が誰よりも強く、美しかった。」
雪蘭はおずおずと口を開く。
凌暁は盃を持つ手を止め、
わずかに驚いたように視線を向けた。
「美しかった……か?」
「はい。刃の動きがまるで火の舞のようで……でも、どこか悲しげで……見ていて胸が締めつけられました。」
熱に浮かされる様に言い終えた瞬間、
雪蘭ははっとして顔を赤くした。
「……っ、す、すみません、私ったら。偉そうに……!」
凌暁は思わず小さく笑った。
「いや。そんなふうに言われたのは初めてだ」
「初めて……ですか?」
「戦場では“強い”か“勝った”かでしか語られない。“美しい”などと呼ばれたことは、一度もないよ。」
その目に浮かんだ柔らかな光に、
雪蘭の胸がまた熱くなる。
沈黙。
しかし、今日はその沈黙が心地よかった。
やがて、凌暁がふと呟くように言った。
「……そなた。いつまで“国主様”と呼ぶつもりだ?」
雪蘭は瞬きをした。
「え……?」
「もう少し、柔らかく呼んでくれてもいいだろう。」
照れ隠しのように視線を逸らしながら続ける。
「名で呼ばれた方が……距離が近くなる気がする。」
(な、名前で……!?)
雪蘭の頬が一気に紅潮した。
言葉が出ないまま、指先が落ち着かず、
視線を泳がせて――小さく、唇が動く。
「……りょ、凌暁様……」
その声音は、
火のように淡く震えていた。
凌暁は一瞬、息を止めたように彼女を見つめ、
ゆるく笑みをこぼした。
「……ああ。その方が、ずっといい。私もそなたを名前で呼ぶことにしよう。」
火の灯りが二人の間を照らし、
夜風が静かに障子を揺らした。
2人は寝台に上がり、横になる。
「おやすみ、雪蘭。」
「おやすみなさいませ、凌暁様。」



