正午、神殿の前庭。
四方に朱の旗が立ち、
焔を象った香炉から煙が天へと昇る。

一国ずつ順に、国主たちが剣を抜き、
天へ、地へ、そして人の心へ――祈りを込めて舞う。
昨日の女たちによる華やかな舞の饗宴とは違い、
どこか張りつめた緊張感をはらんでいた。

刃は陽光を受けて煌めき、
観覧席の正妃たちは、
その勇姿を固唾を飲んで見守る。

やがて、霜華国国主・凌暁の名が告げられる。
彼は静かに進み出た。
鎧を纏う国主が多い中、
彼は深紅の礼衣を纏っていた。
一見して華やかではないが、
背筋は一本の剣のようにまっすぐだった。

「……これほどの気迫を纏う者がいたか」
「いや、ただの舞ではない。あれは本物の剣士だ……」
神官たちは口々に囁きあう。

凌暁の剣を抜く音が、空気を裂いた。

凌暁の剣が走るたび、
地を打つ風が熱を帯び、
焔がその動きに呼応するようにうねった。

これはただの武の披露ではない。
凌暁な、“守るために斬る”という強い意志を
その剣舞に込めたのだった。

最後の一閃――
炎が一条の光となって剣先を包み、
静かに燃え尽きるように消える。
その場にいた誰もが息を呑み、
一拍置いて、歓声と拍手が沸き起こった。

雪蘭は手を合わせたまま、
手を叩くのも忘れて
ただその姿を見つめていた。
胸の奥が熱くて、言葉にならない。
(あの方の剣舞は……炎そのもの。強くて、でも、どこか儚い……なんて美しいのでしょう。)