日が落ちるころ、儀式はようやく終わった。
雪蘭は長い祈りで体が固まり、
凌暁は滝の冷水で体力を削られていた。

夜、
お互い無言のまま部屋に戻ると、
二人はほとんど同時に深いため息をついた。

「……今日も、よくやり遂げた。」
凌暁の声はかすかに掠れていた。
雪蘭は湯を差し出す。
「……お疲れ様でした。冷たい水の中で、長い時間……」

「大したことはない。ありがとう。」
そう言いながら凌暁は湯呑に手を伸ばした。
「冷たいっ!」
湯呑を渡そうとした時に、
凌暁の指先が雪蘭のそれに触れたのだ。
凌暁の指先は赤く染まり、氷のように冷たい。

雪蘭は思わずその手を見つめ、
「……痛くないのですか?」と小さく問う。
凌暁は一瞬だけ目を伏せ、
「……平気だ。」と短く返す。
(嘘だわ……)
雪蘭は心の奥でそっとつぶやいた。

盆に湯呑を置いた凌暁の手を
雪蘭は迷わず両の手で包んだ。
こんな大胆なことをする自分に驚きつつも、
そうせずにはいられなかった。

雪蘭の突然の行動に驚きを見せた凌暁だが、
手を引っ込めることはせず、
彼の手は雪蘭の両の手の中だった。
「ありがとう。そなたのおかげで凍りついた手に血が通ったようだ。」
どれくらいそうしていただろうか。
しばらくして凌暁が雪蘭にそう言ったことで
雪蘭ははっと我に返る。
「いえ、あの出過ぎたことを……」
雪蘭が恥ずかしそうに言うと
凌暁は優しい笑みを向ける。
「私を温めようと思ってくれたのだろう。おかげさまで大丈夫だ。さぁ、もう休もう。」