それから月日は流れ。
赤ん坊だった総領の君も、
今では元気に宮廷を走り回る幼児に成長した。

霜華国の宮廷庭園――。
春の陽光が柔らかく差し込み、
花々が風に揺れる中、
総領の君は庭を駆け回っていた。

すると、ふと小さな水たまりのそばに、
愛らしい小さな亀が佇んでいるのを見つける。
総領の君は目を輝かせ、
かつて母・雪蘭が幼い頃に言ったのと
同じ言葉を口にする。

「あ、幸運な亀さん!」

亀は一瞬、
総領の君の前で小さく光を放つように揺れ、
そしてまるで意思を持つかのように
ゆっくりと首を動かした。
総領の君は不思議そうに眺めつつ、
でも怖がらず、亀に手を伸ばして触れる。

その様子を見守る雪蘭は、静かに微笑んだ。
「玄武様。我が息子・総領の君を、どうか頼みます……」

妊娠・出産を繰り返したことで、
かつてのように幻獣の姿をはっきりと視ることはできなくなっていたが、
彼女にはその存在が確かに感じ取れた。

玄武は静かにその願いを受け取る。
この子が成長し、いつか天啓を訪れた時。
玄武は今度こそは与えるのだ
――かつて雪蘭に与えた力と同じ、清らかで穏やかな加護を。

その場にふと麒麟の姿も現れる。
「玄武よ、お前も諦めが悪いな。」
麒麟は微笑みながら、光輝く角を揺らした。

かつて雪蘭と凌暁の時代に起きた奇跡は、
今、新たな世代にも受け継がれている。
歴史は静かに繰り返され、
幻獣たちの加護と奇跡は、
この国の未来を見守り続ける――。