黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

そのたびに雪蘭の手を握り直し、
落ち着かせるように親指でそっと撫でる。
「雪蘭。そなたは、麒麟に選ばれたこの国の守り手だ。誇らしく、胸を張って良い。」
「……凌暁様が、そばにいてくださるから……です。」
その言葉に、今度は凌暁の方がわずかに顔を赤らめた。
「……ふ。そんな可愛いことを言うな。抱きしめたくなるだろう。」
「ひ、人前ではダメです……!」
「人前でなければ良いというのだな?」
「!!? ち、違いますっ!そういう意味では。」

2人の甘やかな声に、
近くの露店の老夫婦が微笑む。
「若いっていいねぇ……」
「国主様、本当にお妃様が好きなのね。」

凌暁は堂々と胸を張りながら、
雪蘭の肩を抱いたまま歩く。

都の散策を終える頃、
雪蘭の心は驚くほど軽くなっていた。
凌暁の隣にいると、
自分はここにいて良いのだと自然に思える。

「どうだ、少しは気が晴れたか?」
「……はい。とても。」
「ならば良い。」

凌暁は雪蘭の髪を指ですくい、
そっと耳の後ろに流す。
「これからも、不安になったらすぐ言え。
そなたを一人で苦しませはしない。」
「……はい、凌暁。」

雪蘭の笑顔は柔らかく、
春の陽だまりのように温かかった。
その表情を見た瞬間、凌暁は心の中で確信する。
(……儚げで、どこか影を落としていたこの娘は、もういない。そなたは確かに、私と共に歩んでいる。)

その想いが、静かに胸に満ちていった。