黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

ある日の午後。
雪蘭は自室でひとり、
文に目を落としていた。
内容は“お世継ぎを期待する言葉”ばかり。

（まだ……何も……！でも、皆がこうして期待して……）
胸の奥で、重たいものが膨らんでいく。

その表情を見逃す凌暁ではなかった。
「……雪蘭。最近、顔色に影がある。」
「……！凌暁……いつからそこに……」
「さっき来た。そして見れば、そなたはまた難しい顔をしている。」
彼は迷わず雪蘭の隣に座り、
そっと彼女の手を包んだ。
「……世継ぎのことか？」

雪蘭の肩が、びくりと震えた。
「わ、わたし……皆が期待していることは分かっています。でも……本当に、母になれるのか……すぐに子が出来なかったら……皆をがっかりさせてしまう……」
言葉が震え、声が細る。
凌暁はそんな雪蘭を迷いなく抱き寄せた。
「雪蘭。」
「……はい……」
「案ずるな。」
その一言が、まるで天命のように重く、優しい。