「理由は二つある。」

玄武の声は水のように深く澄んでいた。
「雪蘭。お前の祖国は、我を守護と仰ぐ地。そこでは代々、子供が生まれると我への祈りを捧げる慣わしがあった。」

雪蘭は驚いて瞬きをする。
「……確かに、祖国では玄武様の祠が多くありました。でも、まさか……」

玄武は小さく頷く。
「幼い頃の、お前の祈り。　誠実で、澄んでいて……我は気に入っていたのだ。お前がまだ小さかったころ。ときおり我は“小さな亀”となり、お前の前に姿を見せていたのだよ。」

雪蘭は目を見開く。
「小さな亀。っ……！もしかして……幼い頃、庭で毎日のように現れたあの可愛い亀は……！」
玄武は目を細め、
どこか照れたように言う。
「そうだ。お前はいつも我を抱き上げ、『あなたは幸運の亀さん？』と笑っておったろ？」

雪蘭の頬が赤くなる。
「……まさか、幻獣様だったなんて思いもせず……私ったらなんて失礼な。」

玄武は続ける。
「もし麒麟が加護を与えぬのなら、次は我だと思っていた。それほどに……お前は清く、美しかった。」

雪蘭の目に涙が溜まる。
「玄武様……私を守ってくださって……ありがとうございます。」

玄武は穏やかに頷いた。
「必要だったから貸したのではない。　“守りたかったから”貸したのだ。」

麒麟が微笑む。
「雪蘭。お前は五幻獣から“愛された娘”だ。」

凌暁はそんな彼女を誇らしげに見つめ、
静かに彼女の手を取った。