ある日を境に、
蓮音の霊力は急激に弱まり始めた。
突然、祈っても、何も聞こえない。

「蓮音様……どうか、秘されませ。“役目”を失えば、あなたは神殿には居られません。」
周囲は嘘で取り繕い続けた。
本来の蓮音は臆病で、誰より努力する少女だった。
だからこそ、霊力の減退を受け入れられなかった。

蓮音が十代後半に差し掛かった頃から、
神殿内では密かに“堕落”が進んでいたのだ。

精進を怠り、
神力の代わりに“肉欲”で
孤独を紛らわせる神官や巫女たち。

最初、蓮音はその中心ではなかった。
だが彼女は恐怖と焦りから
彼女もその流れに呑まれてしまう。

力が戻るのなら。
神殿に居続けられるのなら。
“神子”の地位が守られるのなら——。

そう思った彼女は禁忌に手を触れた。

けれどもちろん霊力は戻らなかった。
むしろ、神殿に蓄積した穢れが蓮音の心を蝕み、
焦りと嫉妬だけが増幅していった。

そして12年に一度の神事で現れた
“清らかな娘・雪蘭”の存在。
神事を通して彼女の周囲に起こる
普通ではない出来事の数々は
日を追うごとに神殿の関心の的となった。
「彼女が神の声を聞くかもしれない」と。
その瞬間、蓮音は恐怖に飲まれた。

奪われる。
私の地位が、存在が、意味が。
——その日から蓮音は
雪蘭を「脅威」としか見られなくなっていった。

蓮音は泣き続けていた。
誰にも届かない場所で、誰にも気づかれず。
「誰か……私を、“普通の女の子”として愛してほしかった……」
その声は、雪蘭の胸を深く刺した。

そして、
記憶はここでふっと途切れた。