しかしついに——現れた。

雪蘭。
穢れのない、真に清浄な娘。
霊獣の加護を素直に受け取れる、本物の器が。

蓮音は初めて雪蘭を見た時、
心臓を掴まれたような感覚に襲われた。
恐怖だった。
この娘に真実を知られれば、
天啓の腐敗は世に露呈する。
自分たちは終わる。
だから……殺さねばならなかった。
「……なのに。
 どうして……なぜ、まだ消えぬのだ……!」
蓮音の声が震える。

呪詛の残滓が弱まることは、
即ち 雪蘭が天啓の力を吸収し始めた証。
雪蘭が真実に近づけば、
神殿の堕落が暴かれる日も近い。
蓮音は必死に立ち上がり、
禁足の間の中央へ歩み寄る。
「……間に合わぬのなら……
 私が……この手で……!」

その時だった。
背後で気配が動く。
「やりすぎだ、蓮音様。」
振り返ると、数名の神官が立っていた。
普段は蓮音に従う者たち。
だが今の彼らの眼差しは冷ややかだった。
「雪蘭殿に向けられた呪詛……すでに天啓の御心に背いております。」
「これ以上は、天啓そのものを危うくします。」

蓮音は歯を噛み締める。
「……あなたたちも、裏切るのですか?」
しかし神官たちは静かに首を振った。
「裏切っているのは蓮音様の方だ。我らは“本来の天啓”に戻りたいだけ。」
その瞳は、
蓮音の支配から逃れたい者の色だった。
「雪蘭様と霜華国の凌暁殿が到着なされれば……
 真実の儀で、すべては明らかになる。」