雪蘭の指先が震え、視線が揺らぐ。
呪詛は彼女の“罪悪感”に寄生して
囁きを増幅していた。

凌暁は雪蘭の手を強く握り、顔を近づける。
「聞くな。呪詛は、そなたの不安に形を与えようとしているだけだ。そなたは強い。あれだけ長く呪いを受けながら、折れなかっただろう?」
しかしその声はわずかながらに震えていた。
雪蘭が倒れそうになるたび、
凌暁の恐怖もまた深くなっていく。

その瞬間だった。
天啓の奥から、
風を切るような音が響く。
白鹿の姿の麒麟が、
霊光をまとって姿を現した。
『まだ残っていたか……蓮音の呪詛の残滓が。あれほど深く染み込んでいれば、簡単には祓えぬな。』
麒麟の瞳が鋭く光り、
影の塊に向けて角から光を放つ。
雪蘭の身体にまとわりついていた黒い紐のようなものが、
ひとつ、またひとつと引きはがされていった。
『人の身に絡みついた呪いは、我でさえすべてを取り除くには時がいる。だが心配するな。お前たちの進むべき道は、呪いには決して奪わせぬ。」

麒麟は二人を見据え、
背後の天啓の最奥を顎で指し示す。
『行け。残滓は我が押さえる。 “真実”を手にしなければ、この呪いは根を絶たぬ。雪蘭、そして凌暁——お前たちの旅路はまだ終わらぬ。』
雪蘭はまだ震えの残る手で、
凌暁の手を握り返した。
「行きましょう……凌暁さま。麒麟が信じてくれているのです。私たちも前に進まないと。」
凌暁は強く頷き、
雪蘭の肩を支えながら言った。
「もちろんだ。呪いなんかに、そなたの未来は渡さない。」

二人は歩みをそろえ、
天啓の最奥へと進んでいく。
麒麟の光が背後でまた強く輝き、
呪詛の残りかすと対峙する音が、
雷のように轟いた。