一人で生活するには広い部屋に、私の独り言が虚しく消えていく。その時だった。手の中にあったスマホにLINEが届く。

『今から部屋に帰る』

それは仁くんからだった。前までの私だったら、まるで初めて恋をした時みたいに舞い上がっていたかもしれない。でも、今は心の一部が凍り付いていて、喜びも何も感じなかった。

『わかりました』

それだけを送り、私は耳に触れる。揺れているものは仁くんから貰ったピアスじゃなく友達から貰ったものだ。……もう、あのピアスをつけることは一生ない。

「今日で終わりかな」

きっと今から私は仁くんに振られる。恋の終わりは悲しいはずなのに、私は今、その終わりを待ち遠しいとすら思っていた。



「ただいま」

「おかえり」

久しぶりに見た仁くんは、最後にこの部屋で見た時と変わりはなかった。目の下に隈が目立っているような気がするけど、思っていた以上に元気そうだ。

「藍。ずっと長いこと帰って来なくて悪かった」

「いいよ。事件の捜査で忙しかったもんね」

仁くんは優しい目をしている。初めて会った時と変わらない目だ。……同じような目であの女性のことも見ているのかな。