「仁くん、久しぶり。お仕事お疲れ様」

『お疲れ。何だよ。お前も仕事中じゃねぇの?』

サボってるんじゃないか、と言いたげな刺々しい口調だった。私はグッと拳を握り締め、さっきあった出来事を話そうとする。

「あのね、仁くん。私、私……」

致死率100%の病気に感染したかもしれない。そう言わなくちゃいけないのに、言葉が喉の奥につっかえて出て来ない。すると仁くんの大きなため息が聞こえてきた。

『要件は何なんだよ。こっちは捜査で忙しいんだ。用がないならもう切るぞ』

「じ、仁くん!待って!」

私が声を出した時には、もう仁くんは電話を切っていた。私の両目からさらに涙が溢れていく。不安でいっぱいだった心は、ズタズタに傷付けられていた。

(私に何があったのか聞かないの?心配しないの?仁くんにとって私は、ちっぽけでどうでもいい存在なの?あのボーイッシュな人の方が大事なの?)

子どものように声を上げて泣いてしまう。その時だった。部屋のドアが開く。部屋に入ってきたのは、仁くんではなくて薬師寺くんだった。

「先生!!俺、先生のそばにいます!!先生に何があっても俺、離れません!!」

真っ赤な顔でそう言った後、薬師寺くんは私を抱き締める。誰かの温もりに触れたのは久しぶりだ。私は、薬師寺くんに抱き締められながら泣いた。