「でも、ちょっと声聞きたいかも……」

バッグの中からスマホを取り出し、仁くんに電話をかける。でも電話はいつまで経っても繋がることはなかった。寂しいという気持ちがまた募る。

(仁くん、今も仕事で忙しいのかな……。しょうがないよね)

この気持ちをどうやって誤魔化そう。暗くなり始めた道を歩きながら考える。ハーゲンダッツの期間限定味を買おうかな。それともちょっとお高いワインを飲んじゃおうかな。

夜がゆっくりと近付いている。でも、この通りはレストランや色んなお店があるから人で賑わっている。道を行き交う人はみんな笑顔だ。

(そういえば、この辺りにジュエリーショップがあったっけ)

今日結婚した友達は、確かこのジュエリーショップで婚約指輪を買ってもらったって言っていた。何気なくそのお店の方を見た時だった。足が止まる。息がヒュッと音を立てた。

ジュエリーショップの中に、スーツ姿の仁くんがいた。見間違いじゃない。そして仁くんの隣には、私の全く知らない人がいる。ベリーショートの髪にTシャツにワイドパンツーーー大勢の人がその人を見たら男性だと思うかもしれない。でも、医者の私にはわかる。