遂にミレーヌの心を手に入れ、
将来を誓いあったフィリップは、
遂にハイドランジア帝国へと戻ることにした。

ハイドランジアの王子ではなく、
ただの一貴族、オルテンシア男爵として
放浪した「世界」は、
彼に多くの苦難と、そして成長を与えた。
その瞳には、
もはやかつての傲慢な王子の影はない。

ハイドランジアへの帰国後、
彼が真っ直ぐ向かったのは王宮の玉座の間。
玉座にはなお現女帝
――祖母ヴィルヘルミーナが君臨している。
その傍らには、
フィリップの父である皇太子アレクシスの姿があった。

「よく帰ったね、フィリップ。この国を離れて、何を見てきたのか――聞かせてくれるかしら。」

深く頭を下げたフィリップは、
ゆっくりと顔を上げて語り出す。

「世界を巡り、私は知りました。国を支えるのは“生まれ”ではなく、“志”です。努力し、学び、己の力で未来を掴もうとする人々こそ、国の礎です。
もし私が王位を継ぐなら、ハイドランジアを“誰もが力を試せる国”にしたいと思います。」
報告の最後にフィリップが語った言葉に
静まり返った謁見の間。
あの傲慢な王子から、
この様な言葉が出ようとは。
女帝と皇太子は、
確かにそこに“次代の光”を見た。

「……立派になったな、フィリップ。」
皇太子が温かい言葉をかけると、
「まるで、若き日の私を見ているようよ。」
と、女帝も孫の成長を認める。

祖母の微笑に、
フィリップは静かに頭を垂れた。