ある日、広場にて。
「アメリア様、ご懐妊!?!?!?」
リリアの叫びで、村中が凍りついた。
ルークは鍬を落とし、ゼクスは石板を割り、ティナは干し芋を喉に詰まらせた。
「ま、まだ“予定”の段階ですわ! 正式な診断は今朝……っくしゅん!」
「安静第一ですわ、お嬢様! 今すぐ畝から離れて、芋からも距離をとってくださいまし!!」
その瞬間、臨時村議会が発足された。
【議題:アメリア様の“村長兼ママ”体制をいかに支えるか】
議長:リリア(涙声)
副議長:ルーク(ノリ)
政策案提出:ゼクス(石板多数)
現場代表:ガストン(とにかく力仕事)
育児広報:ティナ&ネル(絵本制作準備中)
初日の議決案:
・鍬の代わりに“羽根つき鍬”を作る
・会議中に“おやつタイム”を導入
・赤ちゃん用“畝”の予約
「もはや村が“育児特区”と化しておりますわ……」
アメリアは言った。
「村政とは、“何を育てるか”を問い続ける営みですわ。ですから、わたくしが育てるものが増えたからといって、村長を辞める理由にはなりません。ただ、少しだけ……鍬の重さを、“分け合う”必要があるかもしれませんわね」
アメリアの一時的休養が正式に発表されてからというもの、村は混乱と騒動の渦に巻き込まれていた。
臨時に任命されたのは――
「わ、わたくしが……“代理村長”を務めさせていただきます……っ!」
リリアだった。
【代理村長就任に伴う、アメリア様出産後の基本方針】(初日発表)
・会議時間を半分に削減(寝かしつけ優先)
・おやつ時間を倍増(脳の糖分補給)
・全畝に“よちよち進入禁止ロープ”設置
・鍬の使用は“音量制限あり”
ガストン「寝かしつけ優先の音量で畝耕すって無理だろ……」
ルーク「全村を“ふんわり静音モード”に切り替えるのもまた村政っ!」
ゼクスは「保育と村政の連結システム案」を石板7枚にわたって提出した。
さらに、ティナとネルが開発した“赤ちゃんと読むカレジア村の制度絵本”第一弾が完成。
【タイトル:『わたしのはじめての畝』】
・ページ1:ママは村長。畝のうえをよちよち。
・ページ5:投票のときは「はい」か「芋!」
・ページ8:ゼクスが怖いけどいい人。
「投票のときの『芋!』って、なんだ!?!?」(ゼクス)
アメリアは静かに自室の窓から村の様子を見ていた。
広場では、ルークが“鍬型ガラガラ”の実演販売を始め、ガストンが“よちよち畝バリケード”を設営中。
「わたくしの育休が、ここまで村全体の“再編”を呼ぶとは思いませんでしたわ……」
でも、ふと笑みがこぼれる。
「けれど……誰かが困ったとき、村全体で支えようとするこの姿勢こそが、
“わたくしが耕してきた村”の姿でもありますのね」
アメリアが無事出産した後も、代理村長リリアの奮闘は続いていた。
「ええい、今週の投票案件は“布おむつ派”か“紙おむつ派”かで揉めてますわ!?!?。議案というか完全に育児トーク会ですわ!!!」
ゼクス「石板で“吸水率の経年変化”をグラフにしました」
ルーク「この村……どこへ向かってるの……!?」
会議室の片隅ではネルが“よちよち予算案”を読み上げていた。
「今年度の“だっこ要員人件費”が大幅増です。リリアさん、抱っこのしすぎで腱鞘炎だそうです」
リリア「だって、抱かないと泣き止まないんですの……!」
そしてアメリア。
育休中とは名ばかり、午前は体調を見ながら村の視察、午後は育児用資料の確認、夜は赤ちゃんへの読み聞かせ(『干し芋とわたし』)でフル稼働だった。
「……鍬を持たない日も、“耕す感覚”は手放せませんわね」
広場では、ガストンとティナが“ベビーカー付き耕運機”の実験をしていた。
「後ろが揺れると赤ちゃんがよく寝るんだって!」(ティナ)
「これ、畝も眠くなる仕上がりだな……」(ガストン)
そんな中、ルークが“カレジア村 育児歌”を発表。
【干し芋のうた(子守唄Ver.)】
いもいもごろんと うねのうえ
ねんねのころんと 芋のなか
やさしくやさしく ほしてやり
おひさまみたいに そだてよう
その旋律に、アメリアは静かに目を潤ませた。
「……ああ、この村は、本当に“育つ力”に満ちておりますのね」
そして思った。
――村政とは、制度でも管理でもない。
――“共に生き、共に育てる”という日々の積み重ねなのだと。
それは、ある雨の日だった。
広場に臨時設置された“よちよち議会テント”が、突風で半分吹き飛んだ。
「布おむつ派対紙おむつ派、雨天延期!?本日の議案どうしますの!?!?」(リリア)
「おやつ時間も短縮され、村民が低血糖で無言に……」
(ネル)
「ティナが議会で“寝かしつけ”の実演中、議案書がミルクまみれになりました」
(ルーク)
その夜。
リリアは、自宅の台所でおかゆを煮ながら、石板に次週の議題案を書いていた。
ふと、鍋からあふれる湯気に、涙がこぼれた。
「わたくし……やっていること、全部中途半端ですの……」
そのとき、静かにドアがノックされた。
「お疲れさまですわ、代理村長」
アメリアだった。
「……アメリア様……っ」
「鍬は、重すぎるときは“二人で持てばいい”のですわ」
リリアは、泣き笑いの顔で言った。
「でも、わたくし……赤ちゃんと議案と芋の順番を、どう整理していいか分かりませんの!」
「それでいいのです。混乱は“何かを育てている証拠”ですわ」
アメリアは、湯気の向こうで微笑んだ。
「育児とは、耕し方の違う畑に向き合うようなもの。一度うまくいかなくても、季節が変わればまた育つこともありますの」
翌朝。
アメリアは広場に現れ、静かに言った。
「皆さま、本日より、わたくしは“段階的復帰”といたしますわ」
「畝の一列だけ、鍬を持たせていただきます」
ルーク「帰ってきた……わが村長ぉぉぉ……!!」
リリアは涙を拭いながらも叫んだ。
「おかえりなさいませ、村長!」
ゼクスは“復帰記念鍬”を用意していた。
ティナとネルは“ママ村長といっしょに畝ろう体操”の予告チラシを配布中。
アメリアは畝を見つめた。
「わたくしの耕しは、まだ終わっておりませんのね」
アメリアの段階的復帰初日。
朝から村議会室には議案が山積みだった。
【本日の主要議題】
・離乳食干し芋の調理方針
・“おやつ兼議事進行補助”の制度化案
・“畝内ベビーカー通行権”に関する交通整備規定
・ゼクスの新提案「石板式ベビーモニター」導入是非
アメリアは鍬を手に、会議室に入りながら微笑んだ。
「皆さま……議題の種類が育児八割に達しておりませんこと?」
リリア「それでも運営してみせましたの……!」
ガストン「“抱っこしてから議論”が基本姿勢になってます」
ネル「会議が“寝かしつけ議案”で15分中断されたの昨日で6回目です」
アメリア「……やはり復帰の時機は、今で正解でしたわね」
午後、アメリアは調理班と共に「離乳食干し芋プロトタイプ」の試作に挑んでいた。
「これは……蒸し時間10分、裏ごし二度、微塩ひとつまみ。干し芋にしてから煮る、という逆転の発想……天才的ですわ」
ティナ「“赤ちゃんも食べやすい、おなかに優しい芋”です!」
ルークが試食して泣いた。
「これ……感情で食べる芋……!」
その日の夕刻。
村の畑では、“畝を歩く赤ちゃんと村長”という異様に尊い光景が見られた。
ゼクスが新たに設置した“赤ちゃん記録石板”にはこう刻まれていた。
【本日、カレジア村にて、“初めての一歩”と“復帰の一振り”が重なった】
アメリアは畝を見つめながらつぶやいた。
「育児も村政も、ひとつの畝なのですわ。ただ、耕す速度が違うだけ。けれど、“目指す実り”は、きっと同じですもの」
発表会当日。
広場にはテントが張られ、中央に「いも離乳食開発成果発表」と書かれた手描きの垂れ幕が掲げられていた。
【発表会プログラム】
・開会の辞(代理村長リリア)
・干し芋離乳食レシピ紹介(ティナ&調理班)
・試食会(対象年齢:6ヶ月〜1歳/保護者同伴)
・ゼクスによる“石板データで見る育成経過”プレゼン
・おまけ:ルークの芋紙芝居『いもいもだいぼうけん』
リリア「本日をもちまして、カレジア村は“0歳児も干し芋文化圏”であることを宣言いたしますわ……っ!」
会場は、拍手と小さな“きゃっ”という声で包まれた。
ティナが配膳する「やわらか干し芋ピューレ」に、よちよち歩きの赤ちゃんたちが手を伸ばし、初めての味にくしゃくしゃの笑顔を見せた。
ルーク「泣いてるのか喜んでるのか分からない顔がたまらない……!」
ゼクスが立ち上がり、石板を掲げる。
「本日の試食結果、摂取率平均82%、泣かずに食べきった子3名、うれし泣き2名、食べながら寝落ち1名」
アメリアは壇上で挨拶に立った。
「わたくしたちの耕しは、村の畝だけにとどまりません。制度を育て、関係を育て、そしていま、“文化”を育てておりますの。この干し芋は、わたくしたちが長年育ててきた信頼の味。今日、こうして次の世代に受け継がれることで、それが“文化”となることを確信いたしました」
その言葉に、誰からともなく拍手が起きた。
リリアは泣き笑いの表情でアメリアを見つめ、こう言った。
「アメリア様……これはもう、“いも政治”ですわ……」
「それでも構いませんわ。美味しければ、きっと支え合えるのですから」
その日、村の空にはやさしい芋の香りが立ち込めていた。
「アメリア様、ご懐妊!?!?!?」
リリアの叫びで、村中が凍りついた。
ルークは鍬を落とし、ゼクスは石板を割り、ティナは干し芋を喉に詰まらせた。
「ま、まだ“予定”の段階ですわ! 正式な診断は今朝……っくしゅん!」
「安静第一ですわ、お嬢様! 今すぐ畝から離れて、芋からも距離をとってくださいまし!!」
その瞬間、臨時村議会が発足された。
【議題:アメリア様の“村長兼ママ”体制をいかに支えるか】
議長:リリア(涙声)
副議長:ルーク(ノリ)
政策案提出:ゼクス(石板多数)
現場代表:ガストン(とにかく力仕事)
育児広報:ティナ&ネル(絵本制作準備中)
初日の議決案:
・鍬の代わりに“羽根つき鍬”を作る
・会議中に“おやつタイム”を導入
・赤ちゃん用“畝”の予約
「もはや村が“育児特区”と化しておりますわ……」
アメリアは言った。
「村政とは、“何を育てるか”を問い続ける営みですわ。ですから、わたくしが育てるものが増えたからといって、村長を辞める理由にはなりません。ただ、少しだけ……鍬の重さを、“分け合う”必要があるかもしれませんわね」
アメリアの一時的休養が正式に発表されてからというもの、村は混乱と騒動の渦に巻き込まれていた。
臨時に任命されたのは――
「わ、わたくしが……“代理村長”を務めさせていただきます……っ!」
リリアだった。
【代理村長就任に伴う、アメリア様出産後の基本方針】(初日発表)
・会議時間を半分に削減(寝かしつけ優先)
・おやつ時間を倍増(脳の糖分補給)
・全畝に“よちよち進入禁止ロープ”設置
・鍬の使用は“音量制限あり”
ガストン「寝かしつけ優先の音量で畝耕すって無理だろ……」
ルーク「全村を“ふんわり静音モード”に切り替えるのもまた村政っ!」
ゼクスは「保育と村政の連結システム案」を石板7枚にわたって提出した。
さらに、ティナとネルが開発した“赤ちゃんと読むカレジア村の制度絵本”第一弾が完成。
【タイトル:『わたしのはじめての畝』】
・ページ1:ママは村長。畝のうえをよちよち。
・ページ5:投票のときは「はい」か「芋!」
・ページ8:ゼクスが怖いけどいい人。
「投票のときの『芋!』って、なんだ!?!?」(ゼクス)
アメリアは静かに自室の窓から村の様子を見ていた。
広場では、ルークが“鍬型ガラガラ”の実演販売を始め、ガストンが“よちよち畝バリケード”を設営中。
「わたくしの育休が、ここまで村全体の“再編”を呼ぶとは思いませんでしたわ……」
でも、ふと笑みがこぼれる。
「けれど……誰かが困ったとき、村全体で支えようとするこの姿勢こそが、
“わたくしが耕してきた村”の姿でもありますのね」
アメリアが無事出産した後も、代理村長リリアの奮闘は続いていた。
「ええい、今週の投票案件は“布おむつ派”か“紙おむつ派”かで揉めてますわ!?!?。議案というか完全に育児トーク会ですわ!!!」
ゼクス「石板で“吸水率の経年変化”をグラフにしました」
ルーク「この村……どこへ向かってるの……!?」
会議室の片隅ではネルが“よちよち予算案”を読み上げていた。
「今年度の“だっこ要員人件費”が大幅増です。リリアさん、抱っこのしすぎで腱鞘炎だそうです」
リリア「だって、抱かないと泣き止まないんですの……!」
そしてアメリア。
育休中とは名ばかり、午前は体調を見ながら村の視察、午後は育児用資料の確認、夜は赤ちゃんへの読み聞かせ(『干し芋とわたし』)でフル稼働だった。
「……鍬を持たない日も、“耕す感覚”は手放せませんわね」
広場では、ガストンとティナが“ベビーカー付き耕運機”の実験をしていた。
「後ろが揺れると赤ちゃんがよく寝るんだって!」(ティナ)
「これ、畝も眠くなる仕上がりだな……」(ガストン)
そんな中、ルークが“カレジア村 育児歌”を発表。
【干し芋のうた(子守唄Ver.)】
いもいもごろんと うねのうえ
ねんねのころんと 芋のなか
やさしくやさしく ほしてやり
おひさまみたいに そだてよう
その旋律に、アメリアは静かに目を潤ませた。
「……ああ、この村は、本当に“育つ力”に満ちておりますのね」
そして思った。
――村政とは、制度でも管理でもない。
――“共に生き、共に育てる”という日々の積み重ねなのだと。
それは、ある雨の日だった。
広場に臨時設置された“よちよち議会テント”が、突風で半分吹き飛んだ。
「布おむつ派対紙おむつ派、雨天延期!?本日の議案どうしますの!?!?」(リリア)
「おやつ時間も短縮され、村民が低血糖で無言に……」
(ネル)
「ティナが議会で“寝かしつけ”の実演中、議案書がミルクまみれになりました」
(ルーク)
その夜。
リリアは、自宅の台所でおかゆを煮ながら、石板に次週の議題案を書いていた。
ふと、鍋からあふれる湯気に、涙がこぼれた。
「わたくし……やっていること、全部中途半端ですの……」
そのとき、静かにドアがノックされた。
「お疲れさまですわ、代理村長」
アメリアだった。
「……アメリア様……っ」
「鍬は、重すぎるときは“二人で持てばいい”のですわ」
リリアは、泣き笑いの顔で言った。
「でも、わたくし……赤ちゃんと議案と芋の順番を、どう整理していいか分かりませんの!」
「それでいいのです。混乱は“何かを育てている証拠”ですわ」
アメリアは、湯気の向こうで微笑んだ。
「育児とは、耕し方の違う畑に向き合うようなもの。一度うまくいかなくても、季節が変わればまた育つこともありますの」
翌朝。
アメリアは広場に現れ、静かに言った。
「皆さま、本日より、わたくしは“段階的復帰”といたしますわ」
「畝の一列だけ、鍬を持たせていただきます」
ルーク「帰ってきた……わが村長ぉぉぉ……!!」
リリアは涙を拭いながらも叫んだ。
「おかえりなさいませ、村長!」
ゼクスは“復帰記念鍬”を用意していた。
ティナとネルは“ママ村長といっしょに畝ろう体操”の予告チラシを配布中。
アメリアは畝を見つめた。
「わたくしの耕しは、まだ終わっておりませんのね」
アメリアの段階的復帰初日。
朝から村議会室には議案が山積みだった。
【本日の主要議題】
・離乳食干し芋の調理方針
・“おやつ兼議事進行補助”の制度化案
・“畝内ベビーカー通行権”に関する交通整備規定
・ゼクスの新提案「石板式ベビーモニター」導入是非
アメリアは鍬を手に、会議室に入りながら微笑んだ。
「皆さま……議題の種類が育児八割に達しておりませんこと?」
リリア「それでも運営してみせましたの……!」
ガストン「“抱っこしてから議論”が基本姿勢になってます」
ネル「会議が“寝かしつけ議案”で15分中断されたの昨日で6回目です」
アメリア「……やはり復帰の時機は、今で正解でしたわね」
午後、アメリアは調理班と共に「離乳食干し芋プロトタイプ」の試作に挑んでいた。
「これは……蒸し時間10分、裏ごし二度、微塩ひとつまみ。干し芋にしてから煮る、という逆転の発想……天才的ですわ」
ティナ「“赤ちゃんも食べやすい、おなかに優しい芋”です!」
ルークが試食して泣いた。
「これ……感情で食べる芋……!」
その日の夕刻。
村の畑では、“畝を歩く赤ちゃんと村長”という異様に尊い光景が見られた。
ゼクスが新たに設置した“赤ちゃん記録石板”にはこう刻まれていた。
【本日、カレジア村にて、“初めての一歩”と“復帰の一振り”が重なった】
アメリアは畝を見つめながらつぶやいた。
「育児も村政も、ひとつの畝なのですわ。ただ、耕す速度が違うだけ。けれど、“目指す実り”は、きっと同じですもの」
発表会当日。
広場にはテントが張られ、中央に「いも離乳食開発成果発表」と書かれた手描きの垂れ幕が掲げられていた。
【発表会プログラム】
・開会の辞(代理村長リリア)
・干し芋離乳食レシピ紹介(ティナ&調理班)
・試食会(対象年齢:6ヶ月〜1歳/保護者同伴)
・ゼクスによる“石板データで見る育成経過”プレゼン
・おまけ:ルークの芋紙芝居『いもいもだいぼうけん』
リリア「本日をもちまして、カレジア村は“0歳児も干し芋文化圏”であることを宣言いたしますわ……っ!」
会場は、拍手と小さな“きゃっ”という声で包まれた。
ティナが配膳する「やわらか干し芋ピューレ」に、よちよち歩きの赤ちゃんたちが手を伸ばし、初めての味にくしゃくしゃの笑顔を見せた。
ルーク「泣いてるのか喜んでるのか分からない顔がたまらない……!」
ゼクスが立ち上がり、石板を掲げる。
「本日の試食結果、摂取率平均82%、泣かずに食べきった子3名、うれし泣き2名、食べながら寝落ち1名」
アメリアは壇上で挨拶に立った。
「わたくしたちの耕しは、村の畝だけにとどまりません。制度を育て、関係を育て、そしていま、“文化”を育てておりますの。この干し芋は、わたくしたちが長年育ててきた信頼の味。今日、こうして次の世代に受け継がれることで、それが“文化”となることを確信いたしました」
その言葉に、誰からともなく拍手が起きた。
リリアは泣き笑いの表情でアメリアを見つめ、こう言った。
「アメリア様……これはもう、“いも政治”ですわ……」
「それでも構いませんわ。美味しければ、きっと支え合えるのですから」
その日、村の空にはやさしい芋の香りが立ち込めていた。



