令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜

「アメリア様に、王都大学より特別講義の依頼が来ております」

王都帰還後、開拓代表としての役務を始めたアメリアに届いたのは――

王都大学・政治学部よりの依頼書。

『特別講義テーマ:開拓村における自治と共生の実践』

「鍬で……思想を語れと……?」

しかし、アメリアは静かに頷いた。

「語ってみせます。“芋と自治”で未来を」



王都大学・中央講堂。

高天井に響く鐘の音と、学生たちのざわめきの中。
壇上にアメリア・ルヴァリエが立つ。

その傍らには――

・補佐:リリア(緊張しすぎて酸欠)
・資料係:ルーク(図解:棒人間で政治制度)
・視覚補助:ゼクス(石板スライド)

「本日の講義は、開拓村が“国家と個人”の狭間でどう生きるか、についてです」

講堂前列には学生、後列には教官陣。そしてその中心には、政治学部の理論派貴族――

ライナス・バレイン(23)
王都大学次席講師、論破型エリート。開拓自治に懐疑的。

「令嬢。貴女の村の“自治”がうまくいったのは、規模が小さいからでは?」

「いいえ。“小さい”のではなく、“濃い”のです」

「濃い……?」

「“密度”です。ひとりひとりが語り、責任を持つ“距離の近さ”こそが、村の制度を動かしているのです」

「それは理想論です。制度とは、人数が増えるほど崩れます」

「だからこそ、“思考”を育てるのです。村は、制度を使うのではなく、“制度を育てる場”でした」

ざわつく講堂。

リリアが震える声で補足する。

「お、お嬢様は毎週、村の子どもたちと“水道料金の是非”を討論してますの!」

学生「それ……リアル……!」

「村とは、社会の最小単位であり、感情と制度の接点である」

アメリアの一言に、講堂内が静まり返る。

「“暮らし”と“政治”は切り離せませんわ。開拓は、それを地べたから編む作業です」

壇上の対論相手、ライナス・バレインは軽く首をかしげる。

「ふむ。では伺います。あなたの言う“自治”とは、具体的にどのような制度で?」

「例えば、我が村では“水道使用量に対する住民会議型料金調整制”を導入しています」

「住民会議で価格を……?非効率では?」

「けれど、“納得感”があります。支払いは“義務”でなく“選択の誇り”になりました」

ざわ……ざわ……

学生たちのペンが走る音が聞こえる。

ライナスは目を細める。

「ならば、代表制ではなく、直接民主制を常に敷くと?」

「いえ。“立場に応じた形式”を選びます。小さな自治には“全会参加”が効果的ですが、大規模には“信任の委任”も必要です」

「なるほど。では、反対意見への対応は?」

「すべての声を拾おうとするのではなく、“拾える仕組み”を耕します」

「つまり、制度設計において“耕す”という行為が核なのですね?」

「その通りですわ」

ここでルークが後方から叫ぶ。

「制度耕して!村が育って!愛も育った!それがカレジア村だーっ!!」

「叫ばないでくださいまし!!」

教室の笑いと緊張が交錯する中、ゼクスが静かに石板を掲げた。

【石板スライド:開拓村発の“納得型制度”一覧】
・教育制度:週次討論+実地労働実習
・医療管理:保健士+衛生啓発劇(BGMつき)
・恋愛制度:観察対象(研究中)

「最後のだけ浮いておりますわ!!」

学生たちはざわめきつつも、本気で聞いていた。

ライナスが腕を組む。

「率直に言いましょう。私は開拓に懐疑的でした。辺境の理想郷にすぎないと。ですがあなたの話には、“理想を日常に変える工夫”がある。それを、ぜひ講義録に……」

「えっ、講義録!?!」

「正規教材にしたいと」

「まあ!!!」

リリアが椅子ごと倒れた。

「お嬢様の“芋哲学”が王都のカリキュラムに!!」

「芋だけが哲学ではありませんの!!」

講義後、学生たちが列を成した。

「質問です! 村で討論する時、感情がぶつかったらどうしますか?」

「反対された時、怖くならないですか?」

「干し芋は何味が一番人気ですか?」

「最後のは後日試食会を開きます」

アメリアは、未来を語る若者たちの瞳の奥に、
かつての自分を重ねていた。

「開拓とは、“耕す誰か”を増やしていくことでもありますわ」

講義翌日。

王都大学からアメリアのもとに届いたのは、正式な提案書だった。

『開拓自治村における実地教育連携プロジェクト計画案』

要するに――

「学生たちを“村に送り込み”、現地で開拓を体験させるということですわね」

「ざっくり言えば、“開拓研修合宿”です、お嬢様!」

「……合宿……」

脳裏によぎる干し芋合戦、鍬の持ち方講座、ヤギと畑の境界線問題。

「学生が……ついてこられます?」

アメリアは頷いた。

「ええ。彼らは実際に“耕しに来る”のですわ」

一週間後。

カレジア村に、王都大学からの“研修生”が到着。

・エイリーン:貴族出身、完璧主義の理論派少女。
・カイ:平民上がり、皮肉屋ながら実地に強い。
・ユウナ:感受性過剰な文学少女。詩を詠みながら鍬を振るう。
・マロ:理屈が通じない謎のポジティブ男子。村人の方が困惑。

「この村、地面が……温かい」

「人も近い。あと、干し芋の匂いが常にする」

村人たちの反応も様々。

「都会の子たちに鍬を渡す日が来るとは……」

「この子、芋の皮剥きで詩を詠んでますけど、大丈夫ですか!?」

アメリアは、研修初日にこう語った。

「“知る”だけでは人は育ちません。“混ざり合い”、感じることが必要です。この村は、あなたたちの“問い”に答える場であり、同時にあなたたち自身が“耕される場所”です」

彼女の言葉に、学生たちは深く頷いた。