「想定外の連続、それが“危機”というものですわ」

穏やかな村の日々に、突如として降りかかる試練。

――それは雨。

――それは盗賊。

――それは、名もなき熱と咳。

カレジア村に、“外敵”がやって来た。

自然。人災。そして病。

「防災は、未来への貯蓄。村を守ることは、未来を守ることですのよ」

村の命運を握るのは、鍬でも、芋でも、恋でもない。

今必要なのは、“冷静と指揮力”であった。



それは、ある日のことだった。

「お嬢様! 川の水位が、尋常じゃないです!」

「雨の音が、畑じゃなくて屋根を貫いてます!!」

「ゼクスが石像で“防波堤”作ろうとしてますが、なぜ今!!」

連盟合同マルシェから数日。
村が新たな段階に踏み出したその矢先。

カレジア村を襲ったのは、“観測史上最強”と言われる暴風と大雨だった。

「これは“開拓期型気象災害”ですわ!!」

「初耳ワード!!」

すぐさま村内に「緊急対応本部」が設置された。

【緊急対応本部:カレジア村防災局(仮)】
・司令:アメリア・ルヴァリエ
・副司令:リリア(心労で胃に穴が空きそう)
・土木担当:ガストン
・物資管理:ルーク
・通信連絡:ネル(走力最強)
・癒し係:ヤギ

「各班、現在地の水位と風速を定時報告! わたくしは“避難所”の確保に入りますわ!」

「お嬢様が先頭で屋根登ってますうううう!!」

暴風で屋根が剥がれ、畑は一部冠水。橋はギリギリ持ちこたえたが、水道管の一部が破損。

だが村人たちは――慌てなかった。

なぜなら、“あの時の水道整備”と“橋再建”があったから。

「予行演習、してたようなもんだよな……」

「備えてたものって、こういう時に光るんだな」

「村長の“うるさいほどの管理”が、全部役に立ってる!!」

アメリアは、夜通しで村の地形を再確認。
避難所、補給拠点、合流場所、情報掲示。

「村という共同体は、非常時にこそ“本性”が試されますのよ」

「お嬢様、カッコよすぎてちょっと惚れました!!」

「村が水に浮いても、心は沈みませんわ!!」

そして明け方。

「水位、下がり始めました……!」

「光が……差してきた……」

村人たちは、無言で空を見上げる。

嵐の夜を、乗り越えた。

だがその週末――村の西側で“別の危機”が姿を見せ始めていた。

「お嬢様、倉庫の扉が……壊されています」

「畑の端に……人の足跡が……」

「盗賊!? 村に!?!?」

リリアの絶叫が、夜の会議室(納屋)に響き渡った。

「はい、目撃情報ありです! 畑の裏に“見知らぬ足跡”!」

「倉庫の扉が壊されていた形跡があります!」

「あと、村の看板が“笑顔です”から“沈黙です”に書き換えられてました!」

「そこだけ地味に怖い!!」

「犯人は、盗賊団“黒帽子”の一味と思われます!」

「初耳ですわーー!!」

ネル(諜報担当)によると、周辺の村で小規模な略奪事件が連続発生中。
しかも、犯行は夜間。風雨の混乱に乗じて物資を狙うタイプだという。

「これは“夜襲型略奪構成”ですわね」

「言い方は知的だけど内容が物騒ですお嬢様!!」

すぐさまアメリアは“夜間巡回班”と“村内物資封鎖令”を発令。

【防衛班・夜間特別布陣】
・見回り隊長:ガストン(棍棒所持)
・補佐:ルーク(見回り中に歌いだすので抑止役つき)
・警戒ブースター:ゼクス(動く石像を門に並べた)
・囮係:リリア(倉庫の中で“寝たふり”)

「いや、なんで私だけ“囮”!?職務重すぎませんか!?」

「あなたが一番、“反応が面白い”からですわ」

「基準それぇぇぇ!!」

一方で、日中は“謎の熱風邪”が村に広がり始めていた。

「村長! リィナが倒れました! 熱と咳が!」

「昨日、近くで“黒い猫にくしゃみ”されたらしいです!」

「原因がオカルト寄りーー!!」

医療体制が整っていない村にとって、疫病は致命的。
だがアメリアは即座に判断する。

「病棟を“開拓仮設療養所”として講堂の一角に設置します!」

「“仮設”って言いながら設備が異様に豪華なんですが!?」

「物資班は隔離セット! 通信班は“衛生警戒告知書”の配布を!」

「ネルが一人で“手描きポスター”百枚描いてますけど!?」

村全体が緊張と混乱に包まれる中、
なぜか門の前に“鍬を持った人物の影”が立っていた。

「……誰?」

名乗った名は――シエル。

「通りすがりの“旅の衛生士”です」

「旅にそんな職業ありますの!?」

「ええ、旅先で水と空気と人々の“清潔”を守るのが使命です」

「胡散臭いけど必要すぎる……!」

アメリアは彼を“非常勤保健顧問”に即採用。

「よろしくお願いします。あとで手洗い啓発歌でも歌います」

「それ、絶対村の子どもたちにウケますわ……」

そして夜。

「倉庫の前に、不審者一名! 接近中!」

「ルーク、ガストン、包囲して!」

「ゼクス、石像可動! リリア、寝たふり継続!」

「お嬢様、喋らないでーーー!!」

そして、捕らえられたのは――少年。

「えっ、子ども!? 盗賊じゃなくて、食料探してただけ……?」

アメリアは静かに膝をついた。

「……貴方の村、困っているのですね?」

「……兄さんたちと食べ物探してて、分かれて……」

「分かりましたわ。ならば、交渉の余地ありです」

盗賊に見えたその子は、実は“崩壊寸前の村”からの漂流者だった。

「カレジア村として、正式に“支援協定”を提案いたします」

アメリアは静かに告げた。

盗賊と疑われた少年・ライル。
彼の話から明らかになったのは、西方にある小村“エルデン”の惨状だった。

災害で孤立、支援途絶、食糧不足、流行病。

「村に残っているのは子どもと老人ばかり。兄たちは皆……どこかに散った」

その言葉に、カレジア村は震えた。

「それ、まるで……昔の私たちですわ」

リリアがぽつりと呟く。

アメリアは、村人たちを集めた。

「皆さま。この村がここまで来られたのは、“誰かが耕した道”があったからです」

「今度は、わたくしたちが“道を耕す”番ですわ」

【緊急支援作戦:耕しの手を西へ】
・隊長:アメリア(兼交渉官)
・食糧班:リリア&ガストン
・衛生班:シエル(旅の衛生士)&ゼクス(石で仕切り作成)
・護衛兼雑用:ルーク(芋を持って行ってウケた)
・連絡役:ネル(鳩より速い)

エルデン村は、想像を絶する静けさだった。

壊れた小屋、濁った井戸、沈黙する家々。

だが、カレジア村からの支援が届くと、少しずつ人が外に出てくるようになる。

子どもたちが干し芋をかじり、老人が笑い、若者が「俺も配る」と言い出す。

「村が……動き始めてる……」

ライルは、空を見上げて呟いた。

アメリアは、崩れかけた公会堂の前に立ち、はっきりと宣言する。

「カレジア村は、エルデン村と“対等な連携関係”を築きます」

「支援するのでも、されるのでもなく。共に、再建を進めましょう」

村の代表代行となった若者が、深く頭を下げた。

「……必ず、恩を“未来”で返します」

数日後。

アメリアは村に戻り、“危機管理白書”を仕上げていた。

・自然災害対策の見直し
・盗難対応フローの整備
・仮設医療棟の恒常化
・連盟向け“広域支援制度”案の提出

「守ることと、耕すことは似ていますの。どちらも、“根”を見失ってはなりませんわ」

そして彼女は一通の手紙を綴る。

『この村が生きる意味は、“育てる力”にあります。支援とは、信頼の芽を育てること。わたくしたちは今日も、未来のために耕します』

その手紙は、再建中のエルデン村に、風に乗って届いた。