花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

 風の冷たくなってきた初秋の頃。すこし、背伸びをしてあなたの……、

「私、あなたが一番なんだから。理生」

 あの頃よりも精悍で男らしい顔つきになったあなたの頬にそっと口づける。それが私の答えだった。

 *

「お父さん。寒くなってきたさけ、鍋にしますわ」

 畳に寝っ転がっている夫を見て思うことはあれど、日々が戦いだ。

 子育ての責務からは逃れられた。だが、被災地で生きるこの現実と日々向き合わなければならない。

 台所に入って鍋に湯を沸かし、その隙にお手洗いに行こうとすると、原稿用紙が散らばっていることに気づく。

「うふふ。お父さん、まだまだ諦めておらんのね」

 照れ隠しでか背を向けた夫が尻を掻いた。

 *

「緑川塗の素晴らしさは世界で通用するものだと思っています。……ええ、いいお話が出来てよかったです」

 わざわざ緑川を訪れてくれた顧客に礼を言う。この現状を見せて、そして、戦うのだ。

 出口までお見送りをする際にふっと、花の香りが鼻をかすめた。……春が近づいている。この真冬に春を感じられる、それは、なによりも、ひとびとが幸せであることの証拠だ。