花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

 縁側から庭を覗いてみれば、猫が立ち止まってこちらを見ていた。……黒猫か。不吉と言われる黒猫。かつて飼われていた時期があったのか、鈴のついた首輪をつけている。だが、毛はぼさぼさで毛につやがない。

 黒猫は、私と目を合わせ、みゃあと鳴いた。……そのとき。

 自分がいったいなにをしでかそうとしているのかを悟った。包丁を落とす。父は、いびきをかいて寝ている。……ああ。

 駄目だ駄目だこんなところで折れている場合じゃない。

 花と名付けられたこの名にふさわしく、どんな枯れた地でも可憐に生き抜こう。

 生まれて初めて、ちゃんと、父の小説を読んだ。確かに面白かった。凄みを感じた。

 父にしか出来ないことを父はきちんとやり遂げたのだ。たとえいま、畳に寝転がって、酒浸りで、いびきをかいている父であっても。父の偉業をちゃんと評価出来る娘でありたい。……猫の存在でようやく、父のことを理解しようと思えた。それまでは被害者面ばかりしていて、きちんと父のことを見ようとしていなかった。