花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~

 台所で母がお茶の用意をするので、私はダイニングの上座の席に座る。こうして、台所に向かう母の後ろ姿を見るのは随分久しぶりで。いつも台所に立つのは母で。父は飲んだくれでうんざりしていた。

 学校帰りにうちの父がふらついていることは周知の事実で、翌日クラスメイトの噂話でそれを知るのだ。もう、うんざりだった。

 こんな父となんか別れてくれればいいのに。

 でも父は、こんな体たらくを晒す一方で文筆家でもあり、時々出版社のかたがやってくる。菓子折りを持って。

 父が、賞を受賞したのは私が生まれる前のことだった。地元のみんなは勿論知っている。

 受賞作「能登逃亡」は、能登を舞台にしたスリリングなサスペンス要素を盛り込んだミステリー小説で、かつて畑中にまで通じていたのと鉄道も千枚田もやせの断崖も登場する。読み応えのある小説だ。

 華々しい賞を受賞した父の誇らしげな写真を見たことがある。あのアルバムはどうしたのだろう。

 既に実家は更地となってしまった。果たしてどれだけの家財を持ち出せたのか。見る限り中古品を集めたようだった。

 地元での仕事を失い、土地を失った父と母が、どれほどの苦労をしたのか。この簡素な室内がそれを証明している。