放課後の教室は、夕陽に染まりオレンジ色に包まれていた。



黒板に残るチョークの跡、机の上のノート、風に揺れるカーテン。
その中で、雫は一人、苦手な数式と格闘していた。




『…また間違えた。』

小さくため息をつくと、後ろから軽い声が聞こえる。



「ここ、マイナスが逆じゃない?」

顔を上げると、空がプリントを覗き込んでいた。
「うちのクラスも同じ課題出てる。見てもいい?」




整った顔が急に目の前に現れて心臓が跳ねる。


このドキドキは急に話しかけられた驚きがくるものだ、そう自分に言い聞かせる。



『……うん』

気づけば自然に隣に座っている。


空が机を寄せて、ノートに指を伸ばした。

指先が触れた瞬間、雫は呼吸を忘れる。


「ここさ、符号変わるの、気づきにくいよな」

『……ありがと』

「いや、全然。俺も最初間違えたから。」




夕陽に透ける空の笑顔に、私の心は暖かくなる。




――なんでこんなに自然なんだろう、この人は。