Existence *

退院してから何かを考える暇なく仕事がとにかく忙しかった。

ホスト時代とはまた違う忙しさ。


ただ、毎日が仕事で終わり、その繰り返し。

だから正直、考える事は何もなかった。

と言うよりも考える暇すらなかった。


入院する前からずっと来ていなかった場所。

いつ来てもお墓に飾られてある花が綺麗に咲き誇っている。


今でも誰かが来て、お袋の事を思い出してくれている事に嬉しく思う。

しゃがんでライターで線香に火を点けて置き、手を合わせた。


特に語る事もなかった。

久しぶりって事と、元気にしてるって事くらい。

あと、数か月後に仕事で海外に行くから当分来れないって事。

行くまでには何回か来るって事。


暫くして立ち上がり一息吐く。

お墓を後にしようと足を進めた時、前方から来る男と一瞬目が合ってしまった。

その視線をスッと逸らし足を進めるも、見覚えのある顔に俺の頭の中で記憶を辿る。


何処かで…


「…――あの、」


その声で必然的に足を止め、振り向く先の男を再び目で捕えると、思い出す様に俺の表情が崩れた。


あぁ、この男。

美咲と一緒に居て何してたか分かんねぇ金髪の男。

いや、むしろ髪の色が変わってた所為で誰だか分らなかった。


「なんか用か?」


思わず素っ気なく返してしまった言葉。

俺を呼び止めて、何がある?

目の前の男は今時の若い男って感じで、ムカつくけど俺が見ても男前だった。


「誤解させてしまったらすみません」

「はい?」

「美咲さんと、」


まさかコイツの口から美咲の名前が出て来るとは思わなかった。

いや、むしろ俺と美咲が付き合ってるって事を知ってたって事か。


「つか、何が言いてぇの?」

「美咲さんとはなんでもないです」

「……」

「誤解招くようなことしてたらすみません」


誤解招くようなこと?

むしろなんでいちいちそれを俺に言ってきた?

雨の中、美咲と抱き合ってそのまま消えて行ったコイツに一瞬イラっとする。

殴りたい気持ちが出るも、この端正の顔を殴るわけにもいかなかった。


美咲がこの男に揺れる気持ちも分かる。