Existence *

香恋のノートと色鉛筆をリュックに仕舞い、俺は諒也に手渡した。


「じゃあ、また…」


そう言った諒也が足を進めたと思ったら、その足を止め俺を見る。


「どした?」

「翔さん、あのさ――…」


そこまで言った諒也が言葉を止める。

言いたそうで言いにくいその表情。

迷った表情で俺を見た後、


「あ、いや…なんもねぇっす」


そう言って病室を出て行った。

なんとなく分かってしまった。

そんなときに限って、余計な俺の勘が働く。


多分諒也が言おうとしていたのは美咲の事。


でも諒也は言いづらかったのだろう。

だから俺も敢えて知らないふりをした。


諒也は今まで全く美咲の事は触れては来なかった。

俺にとったらその方が楽で、そっとしてほしいって思う。


諒也にとったら俺らの間に挟まれたぎこちないその空間が嫌なのだろう。

香恋の言葉でまた溢れ出した好きの気持がめんどくさいほど、煮えくり返っていた。


だから退院するまでのこの10日間がやけに長かった。

退院したらなにかあるのかって言われても、特に何もないけど、この空間がまた美咲を思い出してしまっていた。


そうあの時と同じような気持ちが、ここに居ると思い出す。