Existence *

暫く香恋と居た。

まだ居ると言った香恋を置いて、諒也は一旦仕事の用事があると言って出て行った後、香恋は蔓延の笑みで俺を見た。


「翔くんと二人になっちゃった」


嬉しそうに頬を緩める香恋に俺も頬を緩める。


「香恋、なにするー?」

「お絵描きする」

「お絵描き?ノートはあるけど色鉛筆とかねぇよ?」

「香恋、ある」

「え、持ってんの?」

「うん」


香恋は持ってきてた小さなリュックからノートと色鉛筆を取り出す。

それをテーブルに置いて、絵を描きだした。


「おぉ、香恋、上手だな」

「翔くん、お絵描きできる?」

「ううん。俺、苦手」

「ママね、いっぱい描けるよ」

「ママは絵の学校行ってたから」

「絵の学校ってなに?」

「お勉強するところだよ」

「ふーん…」

「なぁ、香恋。いつもそのお絵描き持ち歩いてんの?」

「うん。香恋の大切なもの」

「そっか」

「翔くんの大切なものってなぁに?」

「え、…俺?」


香恋に言われて首を傾げる。

言われてみれば、特に考えた事もなかった。

考える俺に香恋はお絵描きをしていた手を止めて、俺を見上げた。


「大切なものはなくしちゃいけないってママが言ってた」

「そうだな」

「なんで?」

「…え、なんでって?」

「うん」

「大切なものなくすと悲しくなるから。なくしたら悲しくなるだろ?」

「泣いちゃうから?」

「うん」

「だから大切にしねぇとダメなんだよ」

「翔くんはなに?」

「うーん…何かな」

「ないの?」

「いっぱいあるけど…」

「香恋は翔くんだよ」


そう言って、嬉しそうに笑った。


「あ、え?人の事言ってんの?」

「香恋、翔くん居なくなったら泣く」

「えー、香恋泣いてくれんの?」

「うん!パパもママもぉー、実香ちゃんも泣く」

「俺も香恋居なくなったら泣くよ?」

「みぃちゃんも?」

「…え?」


一瞬、その言葉で小さく呟き言葉を止める。


「みぃちゃん、香恋とバイバイする時、寂しいって泣いてた」

「……」

「こうやってぇー、ギューッってされた」

「そっか…」


香恋の小さな手で俺を抱きしめる。

そんな香恋を見て微笑み、俺は香恋の頭を撫ぜた。